場のチカラ
この研究会では、コミュニケーション論・メディア論の観点から「場」というコンセプトについて考えます。
地域コミュニティのなかで、創造性に富み、活気のある「場」はどのように生まれ、育まれてゆくのか…。まずは、じぶんの足で歩くことからはじめます。五感を駆使してまちをじっくりと眺め、気になった〈モノ・コト〉をていねいに「採集」することを大切にします。それは、つまるところ、ひととの関係性を理解することであり、じぶん自身について向き合うことです。

2003年春から、「場のチカラ」というテーマで研究会を開講してきました。「場」は、たんなる物理的な環境ではなく、ひととひととの相互作用が前提となって生まれます。その意味で、「場」はコミュニケーションの問題としてアプローチする必要があります。さらに、ひとびとが「状況(situation)」をどう理解するかは、個人的な問題であると同時に、社会的な関係の理解、環境との相互作用の所産として理解されるべきものです。関わるひとびとの人数規模によって、「場」の性質は変わるはずです。単発的に生まれ、一度限りで消失する「場」もあれば、定期的・継続的に構成され維持されていく「場」もあります。
こうした「場」の特質を理解するための「しかた」(調査・学習・表現に関わるさまざまな考え方・道具・実践)をデザインし、実際にフィールドに出かけて、その有用性を試すこと、意味づけをおこなうことが中心的な活動になります。 過去3年は、柴又(東京都葛飾区, 2004)、金沢(石川県, 2005)、坂出(香川, 2006)、“湘南”(神奈川, 2007)等でフィールド調査をおこない、地域資源の評価・再評価をすすめるとともに、地域メディアのデザインを試みてきました。

フィールドの選定:エッジを歩く
2007年度秋学期は、K. リンチのいう「イメージアビリティ(imageablity)」というコンセプトを再考しながら、「場」の問題を考えます。リンチは、都市のイメージを構成するエレメントを挙げていますが、なかでも「エッジ(edge)」に着目して、フィールド調査をデザインします。「エッジ(へり/ふち)」は、イメージとイメージとの継ぎ目(あるいは障壁)です。リンチは『都市のイメージ』のなかで、「エッジ」をつぎのように説明しています。
エッジとは、観察者がパスとしては用いない、あるいはパスとはみなさない、線状のエレメントをいう。つまり海岸、鉄道線路の切通し、開発地の緑、壁など、2つの局面の間にある境界であり、連続状態を中断する線状のもののことである。これは点を示す座標軸というよりは、人々が領域を知るために横側から参照するものである。これは多少の通りぬけは許すとしても、ひとつの地域を他から切り離している障壁であるかも知れないし、2つの地域を相互に関連させ、結びつけている継ぎ目であるかもしれない。このようなエッジというエレメントはおそらく、パスほど支配的なものではないが、それでも多くの人々にとって組立てのための重要な要素であり、とくに、水面や壁が都市の輪郭を形づくっている場合のように、漠然とした地域をひとつにまとめる役割を果たす点で重要である。

履修者は、個人またはグループで、まちのなかの「エッジ」を調査します。継続履修の場合、引き続き、湘南エリアで調査をおこなうことも可能ですが、「エッジ」というコンセプトをもちいて、歩く経路を整理してもらうことになります。
学期中に最低10回はフィールドに足をはこび、逐次フィールドノート(写真や音声などのデータをふくむ)を記し、お互いの進捗を参照しながら調査をすすめることになります。

「しかた」のデザイン:まち {で, を, が} {あそ, まな} ぶ
すでに述べたとおり、研究会では、「場」の特質を理解するための「しかた」(調査・学習・表現に関わるさまざまな考え方・道具・実践)をデザインし、実際にフィールドに出かけて、その有用性を試すこと、意味づけをおこなうことを目指します。一連の調査の進捗は、個人(グループ)によって、さまざまですが、以下のように発想しながら計画を立てます。

(1) まちで遊ぶ・まちで学ぶ
まずは、まちに出かけます。具体的には、カメラ付きケータイをはじめとするさまざまなモバイル機器(GPS、デジタル歩数計、ボイスレコーダーなど)を活用した「まち遊び/学び」のデザインと実践をおこないます。既存の「まち遊び/学び」のコンテンツを参照しながら、目的や対象に応じてバリエーションを考案します。

(2) まちを遊ぶ・まちを学ぶ
まちに出かけることが日常的なふるまいになってきたら、まちに偏在するさまざまな資源の評価・再評価をすすめます。身体的な感覚をともなうかたちで遊び、そして学ぶことによって、これまで慣れ親しんでいたのとはちがった感覚で、まちを理解できるようになるはずです。当然のことながら、このプロセスにおいては、あたらしい人間関係をつくり、育んでゆくことが必要になります。結局のところ、まちを遊び、(それをつうじて)まちを学ぶ試みをつうじて、ぼくたちのコミュニケーションのあり方を再考することが求められるのです。

(3) まちが遊ぶ・まちが学ぶ
最終的に目指すべきは、ぼくたちの調査・研究の成果を、何らかのかたちで地域コミュニティに還すことです。まちが遊び心に満ち(つまり、コミュニティそのものがある種の寛容さやゆとりを持つこと)、まちが自律的に学ぶ(つまり、みずからが暮らす生活環境を恒常的に評価し、必要に応じてアクションを起こすこと)という状況が、どのように実現されうるのかを考えます。これについては、少しばかりのんびりと見守る必要がありますが、つねに調査者の位置を確認しながら、あたらしい地域メディアのデザインやワークショップの企画などをおこないます。また、秋学期におこなわれたフィールド調査の成果は、「フィールドワーク展IV」(2008年2月開催予定)で展示します。

研究会への取り組みについては、以下の点を重視しています。
(1) フィールドで発想する
この研究会では、現場(フィールド)での直接的な体験から、〈モノ・コト〉を考えるスタイルを大切にします。もちろん、本・論文を読むこと、理論的な枠組みをしっかりとつくることも重要ですが、まずはじぶんの目で見ること・じぶんの身体で感じることを重視します。近年、「フィールドワーク」ということばが一般的に使われるようになりましたが、「フィールドワーク」には、地道に観察・記録をおこなうこと、時間をかけてデータの整理や解釈を試みることなど、知識を生成するための“技法”としてのトレーニングには(それなりの)時間とエネルギーが要求されます。まち歩きを愉しむことは重要ですが、一人前のフィールドワーカーとして、足を動かすことが求められます。

(2) カレンダーを意識する
忙しいことは悪いことではないと思いますが、じぶんの〈やりたいこと〉と〈やること〉とのバランスを上手く取らないと、すべてが中途半端になります。他の授業やサークル、アルバイトなど、さまざまな活動とともに研究会を“中心”に位置づけることを強く望みます。言いかえるならば、〈望ましさ〉と〈実現可能性〉をつねに意識するということです。これはやる気、能力、チャンスなどと関連していますが、スケジュールや時間のマネジメントが重要である場合が少なくありません。中途半端にならないように、研究活動のカレンダーをきちんとデザインすることが重要です。

(3) じぶんを記録する
フィールドワークを基本的なアプローチにする際、調査の対象となる〈モノ・コト〉への感受性ばかりでなく、テーマに取り組んでいるじぶん自身への感受性も重要です。つまり、じぶんが、いったいどのような〈立場〉で〈モノ・コト〉を見ているのか…をどれだけ意識できるかということです。また、その〈立場〉をどのように明示的に表現(=つまりは調査結果の報告)できるか、が大切です。フィールドワークをおこなう際には、現場で見たこと・発見したことを書き留めるためにフィールドノートを書くのが一般的ですが、研究会の時間をふくめ、日々のじぶんをハガキやモブログに記録します。

すすめかた/スケジュール
・週2回の研究会のうち、1回は、フィールドワークに出かけます。詳細については調整しますが、原則として木曜日の午後は空けておくように履修計画を立ててください。
・木曜日はフィールドに出かけ、月曜日の研究会の時間は、おもに調査経過/成果の発表や文献解題、お互いの活動についての情報の共有のために使います。
・課題・演習によっては、少人数のグループワークをおこないます。
・できるかぎり、“インフォーマルな学び”の時間をつくります。
・学期中の活動は、きちんとカタチにします(学会等での発表・展示を目指して成果をまとめます)。

9月29日(土)〜30日(日)にかけて、函館で研究会合宿(フィールドワーク実習)をおこなう予定です。
この他にも、秋学期はイベントがたくさんあります。学期をつうじて、各自(グループ)ですすめるフィールドワークと並行して、以下のようなイベントに参画します。

・10月3日(水)〜19日(金) 100人の浅草モダン展(ギャラリーA4・東陽町)
・10月 第23回葛飾区産業フェア(テクノプラザかつしか・青砥)
・11月22日(木)〜23日(金) SFCオープンリサーチフォーラム2007(ORF2007)(六本木ヒルズ・六本木)
・2008年2月1日(金)〜3日(日)[予定] フィールドワーク展IV (都内を予定)

参考文献
上記のテーマで活動するにあたって、まずは、まずは以下の本を読んでください。いわゆる「輪読」はしませんが、本の内容と直結させるかたちでフィールドワークをおこなうようにしたいと考えています。必要に応じて、資料等を配布・紹介します。

・海野弘(2004)『足が未来をつくる:〈視覚の帝国〉から〈足の文化〉へ』(洋泉社)
・今和次郎(1987)『考現学入門』藤森照信(編)(ちくま文庫)
・ハイデン, D.(2002)『場所の力:パブリックヒストリーとしての都市景観』後藤春彦・篠田裕見・佐藤俊郎(訳)(学芸出版社)
・ホワイト, W.(2000)『ストリート・コーナーソサエティ』奥田道大・有里典三(訳)(有斐閣)
・好井裕明(2006)『「あたりまえ」を疑う社会学:質的調査のセンス』(光文社新書)
・リンチ, K.(2007)『都市のイメージ 新装版』丹下健三・富田玲子(訳)(岩波書店)

募集人数
25名程度
履修希望者が多数いる場合は選考します。

2007年度秋学期からの履修について
テーマに関心があることはもちろんですが、原則として、履修するための条件は以下のとおりです。

・研究会を中心にじぶんの学修プランを考えているひと
・週に1回、フィールドワークに出かけることのできる(つもりがある)ひと
・本気でやるひと
・こだわりのあるひと

※加藤が担当する「行動と社会関係(〜2005年度)」「リフレクティブデザイン(2007年度〜)」「ネットワークコミュニケーション」 「フィールドワーク法」「情報環境論」「モバイルリサーチ」のいずれか(いくつか/すべて)を履修したことがあるひとが望ましいでしょう。
※4年生で、2007年度秋学期が最終学期となるひとは、「卒業制作」をおこなうことが履修条件です。
※原則として、4年生最終学期からの新規履修(2008年3月卒業予定のひと)はできません。

新規履修希望者は、下記の (1) (2) のいずれか(その気があれば両方)をまとめてください。

(1) 以下のキーワードのいずれかをテーマに、エッセイ(600字)を書く。
・再起動
・モノレール
・半券
・水たまり
・充電器

(2) なぜ、このプロジェクトに興味をもったのか。じぶんはどのように関わるつもりか。その他、自己アピールもふくめて志望理由・活動計画(案)をまとめる(1000〜1200字程度)。

提出期限:2007年7月29日(日)23:59 時間厳守

提出方法:メールで07f [at] fklab.net宛てに送ってください。他のアドレ スに送られらたものは、読まない(というより、見落とす)場合があるので注意。かならず、学部、学年、名前、メールアドレスを明記してください。質問・そ の他についても、同様に07f [at] fklab.net宛てにメールを送ってください。

可能なかぎり、会って話をする機会をつくりたいと思います。下記の日程で、簡単な「面接」(それほど堅苦しいものではありません)をおこないますので、予定を空けておいてください。メールはマメにチェックしてください。

面接
日時:2007年7月31日(火)〜8月2日(木)時間は調整します。
場所:SFC(ι407)
履修希望者の人数によって変わりますが、例年、ひとり15分程度は話をするように予定を調整しています。


注意:これは2007年6月25日現在のページです。プロジェクトの具体的な活動・最新情報については、下記を参照してください。随時更新するので、マメにチェックしてください。
・2007年度秋学期シラバス http://vanotica.net/07F/
・参考:2007年度春学期シラバス http://vanotica.net/07S/