今和次郎の「考現学」は、まちの風俗を詳細に記述する試みとして知られています [1]。「考現学」においては、スケッチという固有の思考形式や実践が要求されますが、同時に、日常生活で観察可能な〈モノ・コト〉を「調べごとの規定」に沿って、数え上げることが基本です。たとえばおよそ80年前に今和次郎たちが実施した「東京銀座街風俗記録」において、調査者は、身分・職業構成、服装、携帯品、髪型、履物など、あらかじめ決められたカテゴリーに着目しながら、京橋から新橋までの歩道を繰り返し歩きました。
〈現場〉で数えるという行為は、調査者にも負担を与えますが、同時にまちを歩くひとへの配慮も必要となります。今も述べているように、被採集者は、無感覚であったり、気がついて怪訝そうな顔をしたり、その反応はさまざまです。調査者としては、なるべく目立たぬように、ごく自然なふるまいの中で記録することが望ましいということになります。こうした風俗調査は、交通(歩行者)流量の調査のように、定点にとどまってカウンターのボタンを押すのとはちがい、調査者も歩きながら記録をおこなう点に特徴があります。そのためのアプリケーションとして、現在「和次郎カウンター」の開発がすすめられています [2]。
![]()
![]()
【左:記入シート(2004年6月・銀座採集)/中・右:和次郎カウンター(ver 1.0)のケータイ画面】
「和次郎カウンター」は、その名のとおり、今和次郎の方法に代表される「採集活動」に活用するためのケータイ用アプリケーションで、所定のウェブサイトから、ユーザーがケータイにダウンロードして利用します。現時点では、あらかじめ指定されたカテゴリー(たとえば歩行者の洋服の色やもちものなど)について、数えるというシンプルな機能のみが実装されています(上図を参照)。ケータイのボタンがそれぞれの項目に対応していて、ボタンを押すたびに数字が加算され、棒グラフが伸びていきます。調査をしながらも、あたかもケータイのメールを入力しながら歩いているように見えます。これによって、記入用のシートをクリップボードにはさんで持ち歩くことなく、対象となる〈モノ・コト〉を数えることができます。今後は、バージョンアップをすすめるとともに、従来型の調査方法とのちがいなどについて考察する予定です。できれば、20日〜21日に実施する金沢でのフィールドワークでも使ってみたいと思います。
※このエントリーは、最近書いた“「ケータイを調査する」から「ケータイで調査する」へ”(2006, 一章分として書籍に収録予定)の一部を修正したものです。
[1] 今和次郎(1987)藤森照信(編)『考現学』ちくま文庫
[2] 斎藤卓也・鈴木祐太(2005)「和次郎カウンター(version 1.0)」ケータイ用アプリケーション 慶應義塾大学環境情報学部 加藤文俊研究室