渋谷をはかる ::: 渋谷色見本

渋谷色見本

笹野利輝・原田ふくみ・細井美香

はかるということ。

「渋谷をはかってもらいます。」この言葉を聞いたとき、思わずきょとんとしてしまった。そしてすぐに我にかえり、この課題は感覚のみではこなすことができないとすぐに気が付いた。
ここから、もどかしい日々が始まった。テーマにおいては、あらゆる案が出て、そのほとんどがボツになった。頭で考えることと、体を動かすことは全く違った。社会学について無知であることを知った。様々な苦悶があるなかで、ついには渋谷に行きたくなくなることもあった。

しかし、ある段階になると、人は不思議なもので腑に落ちる。気付いたのだ。自分たちで尺度をもつということは、自分たちの基準を作るということであり、結局のところ、それは自分たちの世界感を作ることである、ということに。と同時に、本当にやりたいことを自覚した。それは、人の愛情を垣間見ることであった。たとえ、あるものが古くてみすぼらしかったとしても、漂う空気感はとても繊細なものであり、それは心地よさを与えてくれるのではないか。そして、その逆は、とても悲しい気持ちさせる。雑に扱われたものは、使い勝手が悪く、心の寄せどころがないのだ。この違いは、はかる回数を重ねることでだんだんはっきりとわかってきた。少しの所作や言動で相手の輪郭のようなものがわかることと同じように、わたしたちも、そのものをよく見て、感じることで些細なことからその背後にいる人間を想像することができるようになった。

では、わたしたちは、その愛着をどこから抽出したのか。それは、「雑居ビル」である。まさに渋谷の中心街を覆い尽し、渋谷らしさを演出している立役者だ。多くのビル群があるなかで、わたしたちは、道玄坂・宮益坂・センター街の通り沿いをはかることにした。

はかり方。

メンバーの笹野くんを尺度にし、ある一定の基準を設けた。「古い・新しい」・「手入れされている・手入れされていない」の尺度、二つである。そしてそれを分割表として表した。座標化された四つの区間に名称と色を与えた。古くて手入れされているに当てはまるものは、「いいよね、ここ。」で色は青。新しくて手いれされているところには、「あたりまえか。」で色は白。新しくて手入れされていないところには、「そりゃないだろ。」で色は赤。そして、古くて汚いところには「仕方ない。」で色は紫と定めた。ビルを巡り、おのおのがどこの枠に所属するのかを調べた。
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なぜこのはかり方なのか。

尺度=笹野くん、という点に疑問を持つ方も少なくないのではないか。これでは、主観が混在してしまっていて、「はかる」ということと逸脱しているように思われるかもしれない。しかしながら、笹野くんという存在がいれば、たとえ主観があるにせよ安定的な判断ができる。つまり、彼がいれば渋谷以外のまちであっても、判定可能となる。そう、立派な尺度なのだ。
では、なぜ他のメンバーではなく笹野くんなのか。これは、フィールドワークをしていくなかで、自然とそうなったように思われる。彼の歩き方は、勇敢なのだ。渋谷であれば、怪しい通りや建物は必ずある。しかし、そういうことはおかまいなしにどんどん前に進む。(幾度も「先輩、大丈夫ですよ。」と後押しされた。)このようなまちの歩き方は、彼なしではできなかったし、何よりわたしたちのまちの歩き方まですこしずつ変化させたのである。

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はかることで気付いたこと。

思いのほか、渋谷のビルは侵入が容易い。そして、見た目が古い・汚いからといって、空間までそうとは限らない。人間は見た目が全てではない、と言うが、建物もまさに同じなのである。そして、ビルはそこまで居心地が悪いものではない。地図を見てみると、青や白が目立つなかで、赤はとても少ない。雑多ゆえ、きれいとは胸を張って言いづらい渋谷であっても、最悪な空間というものはほとんどない。気付けば、わたしたちは、フィールドワークの休憩をビルの階段でしていたくらいだ。人もおらず、風も通り、座るのに抵抗がない程度にきれいであった。まさにこれは、フィールドワークをしていくなかでわかっていくことであった。まち歩きは、ただ道を歩いて完結するものであると思っていたのだが、実はもっと範囲は広く、建物の中に入ることも含蓄されるべきことであることに気付いた。そうすることで、より深く、そのまちにいる人の性格を垣間見ることができるのである。いい気持ちになることもあれば、いささか不愉快になることもある。それは、人間付き合いと一緒である。最初の印象があまり良くなくても、向き合っているうちにいつの間にか予想もしない良さが見えてくるのだ。

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