渋谷をはかる ::: SHIBUYA JUMP

SHIBUYA JUMP

小川健太・檜山永梨香・枡野友香

渋谷で「跳ぶ」ということ

きっかけは、ふとした瞬間だった。渋谷の街中をひたすら歩く日々が続く中、ある日、メンバーの一人が細い路地裏でジャンプをした。それは、ほんの一瞬の出来事だったが、カメラに収めた写真を見てみると、何とも言えない高揚感のようなものを覚えた。
人が跳ぶ姿は、愉快で、とても爽快だ。宙を浮く姿から静かな、時に爆発的な、エネルギーを感じる。「跳ぶ」というのは一種の欲求で、人は心のどこかでジャンプを欲している。私たちは、人々が内に秘める潜在的欲求を引き出してみたいと、考えた。

そもそも、なぜ渋谷なのか。渋谷は様々な色を見せるまちである。日本のランドマークシティーとして、時には交通の中枢地として、時には文化発信地として絶大な存在感を醸し出す。日中は多くの若者が訪れ、夜になればスーツ姿の大人たちで溢れる。これほどまでに人を吸いつけるまちは他にあるのだろうか。人々は何かと渋谷に集まり、スクランブル交差点は人でごったがえしている。そんな、唯一無二のパワーを持つまちだからこそ、私たちは渋谷の人々が生み出すエネルギーをはかりたいと、駆り立てられたのである。

声をかけるという経験

私たちは、ジャンプの写真を集めるために、二ヶ月で計20回以上のフィールドワークを行った。カメラを片手に渋谷を歩きながらひたすら声をかける、その繰り返しだった。街中で見知らぬ人に声をかけることは初めての経験で最初は躊躇ってなかなか足が動かなかったが、回数を重ねることで徐々に慣れていった。しかし、跳んでもらうということは想像を遥かに超える困難な調査で、様々な理由で幾度となく断られた。

そこで、私たちは調査者としての立場を再考した。相手から見れば、私たちは得体の知れない集団であり、彼らが不審に思うことはごく自然なこと。大学生という身分をきちんと明かしたうえで、調査目的も説明することにした。また、成果をまとめるために作成したTumblrが、説明の際に大きな補助となった。ここには許可制で写真をのせるのだが、快く承認してくれる人が多く、中には保存をする為にアドレスを聞く人もいた。最終的には、当初の目標を大きく上回る80組、のべ154人のジャンプを撮影することができた。

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私たちは、渋谷にいる人の跳んでいる姿を記録してきた。ひたすら歩き、声をかけ、撮影できたジャンプの写真は計80枚。そのうち、ネット公開の許可を頂くことができた67枚を地図にまとめた。プロットされている数字は、跳んだ瞬間にはじけたエネルギーを点数化したものである。情熱・笑顔・美しさといった写真にも表れている項目に加えて、その場に立ち会った私たちにしかできない評価も行い、計4項目で採点をした。(25点×4項目=100点満点)地図上に並ぶ数字の先にどんなジャンプがあるのか、想像してほしい。

エネルギーをはかる

集めたジャンプを採点するというのが私たちの決めたはかり方である。撮影した写真をもとにジャンプの瞬間のエネルギーの測定を行った。採点基準は大きく分けて2つ、項目は4つとした。
一つ目の採点基準はその人の情熱・笑顔、そしてジャンプの美しさの、写真を見たときに魅力的なジャンプだと感じる3つの要素である。そしてもう一つは、写真に映らないエピソードに基づいて加点するというものである。例えば、跳ぶ瞬間までに到った経緯や、現場でしか体感出来ない相手の人柄などの情報を点数として表すというものだ。
以上の4つの項目をそれぞれ25点の100点満点で採点することで、ジャンプに遭遇した私たちにしか分からない体験そのものを数値化した。

ジャンプのちから

今回最高得点だったものはセンター街のギャル二人のジャンプである。突然のお願いに「ジャンプですか?」と笑いながらも、息を揃えて跳んでくれた。撮ったばかりの写真を見せると両手を叩いて笑い合っていた。別れ際には応援の言葉もかけてくれて、私たちはさわやかな気持ちでその場を去った。
結果の数字は、決して良い跳び方を表しているものではない。経験したことや会話を交えたことで生まれたエピソードなどが、写真には表れずとも込められている。なかには、周囲の視線を気にしながら跳んだものや、跳ぶことに恥じらいを拭いきれないまま跳んだ人もいる。点数の高い人々は、周囲の目を気にせずに元気良く跳んだ人、または特徴的なエピソードが残った人に多い。これは、跳ぶという非日常的な行為だからこそ、それに応えてくれた思い、そしてジャンプに私たちが感動したということの表れである。

私たちが活動を通して声をかけることによって、そこには新たなコミュニケーションが生まれていた。断られても活動自体には興味を持ってくれたり、記念にと自分のカメラを渡されたりもした。逆に、一緒に記念撮影を頼まれることもあった。アイドルやバンドマン、女子高生や外国人……たった二ヶ月でたくさんの出会いがあった。彼らとの会話や写真は私たちの宝物である。この活動はここで一旦区切りがつくが、これからも地道に続けていきたい。

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