渋谷をはかる ::: シブヤカロリーマップ

シブヤカロリーマップ

秋庭大志郎・上田桜子・白羽相仁亜

新しい物差し、新しい渋谷 

新しい視点から渋谷を測り、新しい物差しを作ることとは一体どういうことなのだろうか。
渋谷に限らず、日常生活の中で私たちが何かを測る際には、万人が共通して認識し扱うことのできる物差しが必要となる。物差しとは、長さ・重さ・高さなど、見たり触ったりしただけでは把握することが難しい感覚を、一つの基準をもって誰もが共有できる感覚、理解に落とし込むことを可能にするツールだ。

例えば長さを測る際、私たちは予め適当な長さに区切られ、そこに三十センチという意味が与えられた物差しを用いて対象の長短を理解することになる。そしてこの物差しが広く伝播することで世に三十センチという概念が浸透し、その感覚を多くの人と共有することが可能になっているのだと考える。つまり、僕たちが渋谷を新たな視点で測るということは僕たち独自の視点、気付きをより多くの人と共有するための物差しを作るということにつながるのだろう。

そして一つの物差しを作ることは、渋谷における一つの客観的視点を作るということにもなる。渋谷を測る物差しを客観的視点として共有し他の街に持ち出すことで、その両者の比較に繋げることも可能になるのではないだろうか。またそうすることで、新たに浮かび上がる街の姿やその街らしさを明らかにすることが出来るのかもしれない。
こうして考えると、新しい視点で渋谷を測り、新しい物差しを作ること。それは、世の中に流布する渋谷のイメージや自分達の中に存在する渋谷の「あたりまえ」を解きほぐす物差しを作る、という作業だ。そしてこの作業を通し、僕らが見た渋谷を、渋谷を訪れる全ての人々にとっての新たな渋谷へと、これまでにない街の像として伝播させていくことが可能になるはずだ。

カロリーはエネルギー 

健康志向が盛んにうたわれる現代、誰もが食事や運動の際にカロリーのことを気にかけたことがあるのではないだろうか?僕たちはふとしたきっかけから渋谷を測る新たな指標としてこのカロリーを用いることにした。
カロリーとは、我々の全ての活動に伴い摂取・燃焼されるエネルギー量を示す単位であり、一般的には、消費する、ダイエットする等といったイメージが強いものであるように感じる。しかし、僕たちはこのカロリーをエネルギー源として捉え、摂取したカロリー分しか歩くことが出来ないという制約を設けることで、渋谷での一定カロリー量における活動限界域を調査することにした。そして、それらを地図上に描き起こしていくことで食べ物の持つエネルギーを渋谷の空間的広がりに被せて捉え直すことができるのではないかと考えたのだ。
食べ物はチロルチョコとピノを基準とし、カロリーの計測器にはカロリズムエキスパート(タニタ)という活動量計を用いた。これらをもとに活動限界域を調査していくと、どの道を歩いても同一カロリー下における歩行可能距離、時間、歩数などのデータがほぼ一定であることに気がついたのである。しかし、それにも関わらず、基準となるカロリーに基づく活動限界域の広がりが著しくいびつで不規則的だったのだ。何故このようないびつな広がりを見せたのか。街には一定カロリー下における街の広がりを阻害する何らかの要素があるのではないだろうか。カロリーを用いた調査を通し、僕たちの中に渋谷に対する新たな疑問が生まれてくるのであった。

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これは、基準となる食べ物のカロリーに基づき実際にまちを歩き、カロリーを燃焼しきった地点(活動限界点)を地図上にプロットしてその点を結び、C域(チロルチョコのカロリーで移動出来る範囲)とP域(ピノひと粒のカロリーで移動出来る範囲)をそれぞれ活動限界域という範囲で示した地図である。各活動限界点付近に示された数字は、実際に移動した距離と出発点からの直線距離を示し、実際に歩いた距離と、出発点から遠ざかることが出来た距離の二つのギャップを示している。

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ピノのカロリー量(31kcal)の下、出発点からどれほど離れたビルにどれくらい昇れるのかを調査し、渋谷における垂直方向の活動限界域(移動可能性)を明らかにしようとカロリー等高線を作った。等高線の円の内側に付いた短線は地図記号であって凹地を表すもので、それを応用しカロリー量が内側に行くに連れて減っていく様子を示している。それぞれのビルを出来るだけカロリーを消費する手段(階段>エスカレーター>エレベータ)で昇り、31kcalに達したらその場のフロア数を、達しなかった場合はビルを昇り切った時点での消費カロリーを記録した。イロハニホヘトで表した建物名の横にはそのビルを昇る際に利用した手段を記している。

物差しは街の表情を映し出す

渋谷における活動限界域の広がりを阻害する要素は一体何なのだろうか。僕たちはチロルチョコとピノそれぞれの活動限界域のギャップに当たる場所に実際に足を運ぶことで、この街の広がりを阻害する要素が何なのかを確認することにした。そしてそれは、渋谷独特の地形による坂道や階段などの構造的障害、また、渋谷の道路構造上の障害を回避するために設けられた歩道橋や、ビルの存在により迂回する形で作られた道等といった設計上の問題など、多岐に渡ることが分かった。渋谷のように著しく多層化された街をカロリーという制約の下で歩き新たに街の広がりを地図にすることは、街を平面的な広がりだけでなく、立体的障害や垂直方向への広がりからも把握することを可能にしたのだ。食べ物の持つエネルギーを街の空間的広がりに被せて捉えることで、街の構造やそれにまつわる要素など、従来の地図には表されることのない街の特徴をふまえた新たな渋谷の地形図の様なものを作ることに成功したのである。

しかし、これはあくまでも渋谷での一例に過ぎない。この活動限界域は僕たちが訪れるそれぞれの街の特徴に合わせて、全く別の形を見せてくれるはずだ。僕たちが作った物差しを用いて街を歩くことで、その街その街の性格を映し出した活動限界域が、まるでそれぞれの街の表情であるかのように、地図には表れることの無い新しい姿を見せてくれるに違いない。

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