南の三間

此下千晴・齊藤崇・檜山永梨香

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去年、膝を悪くした。ケンさんの住む洋光台南団地の四街区にはエレベーターがない。63歳にもなると、五階の自宅までの階段の昇り降りが億劫に感じられることもある。この先のことを考えて、民間のマンションに引っ越したらどうか。子どもたちに心配され、不動産屋を巡ったこともあった。だが、それはもうやめた。「一度団地に住んじゃうとね」と、彼は少し困ったような、けれども照れくさそうな顔で言った。「南に三間ってなかなかないの」。

ケンさんがこの団地に越してきてから38年が経った。二度、団地のなかで引っ越しもした。結婚をし、子どもが生まれ、そして巣立っていった。務めていた電機メーカーを辞め、昔からの夢だった福祉の道に進んだ。さまざまな出来事が起こり、変化してきた暮らしのなかで、団地に住んでいるということだけは変わらなかった。

私たちは、洋光台団地に住む、とある男性の半生を追った。彼の人生を団地から紐解いていくと、38年間脈々と紡がれてきた、ここ洋光台団地での暮らしが見えてくる。彼の言葉から、彼の表情から、私たちは生きることと暮らすことのつながりを知ったのであった。


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慶應義塾大学 加藤文俊研究室(2014年度秋学期)