井戸端会議食卓を囲むまで中華王南の三間故郷[Home]団地の暮らし展(2015年1月24日〜26日)

(Updated: 2016-01-24

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はじめに

加藤文俊

団地へ

『団地への招待』(1960)という「啓蒙映画」を見ると、あの頃の人びとの高揚感が伝わってくる。土地を拓き、あたらしい都市(まち)をつくったのだ。学校も公園も商店も、さまざまな施設が集積し、これまでにはなかった共同生活への期待が、いきいきと描かれている。洋光台団地(横浜市磯子区)で入居がはじまったのは、1971年だ。45年近く経ったいま、ぼくたちには、何が見えるのだろうか。どのような「団地の暮らし」に触れることができるのだろうか。

夏休みが始まろうという頃に、同僚の大江守之先生からお声がけいただき、「ルネッサンス in 洋光台」のことを知った。「ルネッサンス in 洋光台」は、UR都市機構(前身は1955年に発足した日本住宅公団)がすすめるプロジェクトで、洋光台団地(洋光台北、洋光台中央、洋光台西の3団地から成る)の再生をとおして、洋光台地域全体の活性化を目指すものである。「ルネッサンス in 洋光台」の「アドバイザー会議」や「エリア会議」、ワークショップなどの成果は、『団地のゆるさが都市(まち)を変える。』(新建築・別冊, 2014)にまとめられている。

そして、このプロジェクトの一環で「CCラボ」がつくられたことを知った。「CC」は、「コミュニティ チャレンジ」を指す。洋光台中央団地の広場に面して開かれた、多目的スペースである。年度内は無料で使えるということもあってか、スケジュール表には、セミナーやワークショップなどの情報が並んでいる。地域活動の方法もスタイルも、じつに多彩な可能性があることに、あらためて気づく。

当然のことながら、空間を整備するだけでは、魅力的な「場所」にはならない。人びとのコミュニケーションが必要なのだ。ぼくたちは、日ごろから「場のチカラ」をキーワードに据え、人びとが集う「居心地のいい場所」について考えている。とくに「キャンパス」の外での活動のあり方について標榜しているので、大江先生を介した「CCラボ」との出会いは、とても幸運なことだった。2014年度秋学期は、洋光台団地の界隈でフィールドワークをすすめて、その進捗や成果の報告は、「CCラボ」でおこなうことにした。洋光台で見たり聞いたりしたことは、洋光台に還すことが大切だと考えたからだ。秋から冬にかけて、「ルネッサンス in 洋光台」プロジェクトの協力を得て、5回ほど「CCラボ」でゼミを開講した。また、「団地の暮らし展」として、成果報告の機会を設けることになった。

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人びとに近づく

「団地の暮らし」を理解するやり方はたくさんあるが、ぼくたちは、いつもどおりフィールドワークという方法と態度で向き合った。グループインタビューやアンケートでは、人びとの日常生活の機微に触れるのは難しい。フィールドワークの強みは、人びとの個性に密着しながら、ぼくたちの感性をも育てることができる点だ。つまり、現場のようすを知ると同時に、ぼくたちの「見方」を変容させることができる。そして、その過程には、唯一無二の「ものがたり」がある。

学部の2、3年生は、4つのグループに分かれ、学期をとおして洋光台に通った。大学院生たちも、洋光台団地の界隈を歩き、学部生たちのプレゼンテーションに触発されて、ドキュメンタリーフィルムの制作をはじめた。今回のフィールドワークの最終的な成果のイメージを共有するために「(学期が終わる頃には)団地に暮らす誰かの家にお邪魔して、一緒に鍋をつつく」という「目標」を設定した。できれば、炬燵で鍋を囲んでいる写真もほしい。もちろん、無茶な要求に聞こえるにちがいない。だが、フィールドワークは出会いに満ちている。かかわり方を慎重にさがし、ことばを交わし、少しずつ信頼関係を築いていく。何が起きるか、わからない。数か月先に、「一緒に鍋をつつく」光景があってもおかしくないはずだ。

フィールドワークは、「お邪魔する」調査方法である。準備を怠らず、礼儀や言動にどれだけ注意していても、人びとの暮らしに介入することはまちがいない。程度の差こそあれ、そもそも「お邪魔する」ことなしには成り立たない。フィールドワークにかぎらず、共同生活を送るということ自体、お互いに「お邪魔する」ことのくり返しである。『団地への招待』で描かれていたのは、近隣との関係を育んでゆくための、大切な「見方」だったのだ。

「団地の暮らし」は、洋光台団地で出会った5つの「ものがたり」である。個性を丁寧に描けば描くほど、ぼくたちは、「ものがたり」の「外側」への想像力をかき立てられる。一つひとつの「ものがたり」を味わい、人と語ることによって、洋光台団地のあたらしい理解が創造できるはずだ。言うまでもなく、「ルネッサンス(再生・復活)」が必要なのは「見た目」だけではない。人びとの「見方」を問うことこそが、求められているのだと思う。

(2014年12月)

※ 今回の洋光台団地におけるフィールドワークの成果は、2015年1月24日(土)〜26日(月)「団地の暮らし展」(洋光台中央団地・CCラボ)、および2015年2月6日(金)〜9日(月)「フィールドワーク展XI:両想い」http://vanotica.net/fw1011/LinkIcon (BankART Studio NYK・2Bギャラリー)で展示予定。
※「団地の暮らし」PDF版 http://vanotica.net/danchi/pdf/danchi.pdfLinkIcon

慶應義塾大学 加藤文俊研究室(2014年度秋学期)