この展覧会には、私たちが研究会で
の活動を通して感じてきた
「むずむず」をつめ込みました。
現場に出かける前の高揚感や緊張感。
起こった出来事を誰かに伝えたくて
たまらない溢れ出る想い。
一方で感じる、予定通りにいかないもどかしさ。
現場を上手く伝えられない歯がゆい気持ち。
自分の至らなさや不甲斐なさ。
私たちは日々の活動の中で、
楽しみながらも時に壁にぶつかり、
「むずむず」を何度も味わってきました。

フィールドワーク展XVI「むずむず」は、
私たちが「むずむず」してきた過程を
味わっていただけるような展覧会です。
ありのままの私たちが作り上げる展覧会を、
心ゆくまでお楽しみください。


メッセージ

「むずむず」によせて
加藤文俊

今年も「フィールドワーク展」
の季節になりました。
あらためてふり返って、
これまで続いてきたことをうれしく思います。
学生の名前は、少しずつ忘れていって
しまうのですが(ごめんなさい)、
不思議なことに、展覧会の風景は
鮮明に記憶に残っています。
だから、いつ、どの会場のどのあたりに
「作品」が置かれていたのかを
思い出せば、学生の顔は浮かんでくるのです。

なぜ続けているのか。楽しいことは
もちろんですが、結局のところは、
学生たちに「表現する人」になって
ほしいという想いがあるからです。
プロとして通用するとかしないとか、
そういうことではなく、
何事にもじぶんの意見をもって、
それをじぶんの方法で人に
伝えようと努力すること。
それが大切だと考えています。

その意味でも、もっともっと
「むずむず」が必要です。
「むずむず」は、理屈も理由も
いらない、身体の反応だからです。
ぼくたちは、形にできない感性、
つまり「むずむず」があるからこそ、
ことばや形を求める。「むずむず」は、
コミュニケーションの源泉なのです。

展示内容

P’ソーン
Pitcha Suphantarida

やせいのきょうしつ
日下 真緒

ファミリーカメラのおばちゃん
木村 真清

加藤研らしさ
比留川 路乃

『P’ソーン』

私は子どもの頃から、母と「P‘」という、おねえさんのような存在と一緒に暮らしてきました。そんな彼らは私にとって、血の繋がった家族でも仕事上の関係とも言いきれない関係性です。 P‘ワーン、P‘ソム、P’マイ。1人と1〜2年生活を共にすると、 私たちがさよならと言い、すぐまた新しい生活が始まります。 連絡も取れず、潔い解散で続けてきてきました。

そして現在私は、そんな彼らと過ごしたタイの地を遠く離れて、 日本で1人暮らしをしています。 たまにタイに帰ると、今まで見ることのなかった新たな視点から 私の周りにいてくれた「家族」の存在を見つめられます。 遠いからこそ、タイにいた時には気づかなかった 彼らの色んな側面に改めて気づく事となりました。 このプロジェクトは2019年の秋学期からスタートし、 自分と家族とのコミュニケーション、 またごく当たり前の関係性を探検するものです。

『やせいのきょうしつ』

世の中的に “荒れている” と語られる教室は誰かの居場所であり、 “悪友” と表される子どもは誰かにとっての大切な仲間かもしれない。 「公立校のポジティブな側面」を語るべく、1年間神奈川県藤沢市の公立小学校や 学習支援施設でフィールドワークを行い、一見制限のある学習環境のなかで、 工夫しながら自由に動き関わりあう教員や子どもたちに出会いました。 そして、現場で起こった100の出来事を考察した上で1つの「ゲーム」をつくりました。
来場者のみなさまには、ゲーミング・シュミレーションの手法を通して 公立校の日常世界を体験していただきます。

『ファミリーカメラのおばちゃん』

小田急小田原線柿生駅という小さな駅から徒歩30秒ほど歩いた場所に ファミリーカメラという、個人経営の昔ながらの写真屋があります。 お店を切り盛りするのは72歳の増井敦子さん、通称おばちゃんです。 まちの人やお客さんはなぜかおばちゃんに自分の悩みや愚痴などを吐露していきます。 それが不思議でこれまで一年以上フィールドワークをしてきました。

最終的にお客さんやまちの人にインタビューした内容などをまとめた本をつくりました。 それと共にファミリーカメラを再現したブースとなっていますので、 ぜひ体験していただきたければと思います。

『加藤研らしさ』

人びとの集まりでは、状況に「ふさわしい」行為を求められることがあります。 「この場では、何となく、このようにしなければならない/したほうがいい」という、 ゆるやかなルールや社会的役割が存在しています。 すなわち、<規範>について興味がありました。

このプロジェクトでは、自身が所属する加藤文俊研究室に注目しました。 履修者ひとりひとりが、加藤研で求められているふるまいをどのように認識しているか、1対1でのインタビューを行いました。 それは、「加藤研らしさ」への期待を理解する試みとなりました。 本展覧会では、同期の4年生とのインタビューからまとめた成果を報告します。

再会の旅路
久慈 麻友

アテ・カテゴリー
高島 秀二郎

被災写真とのかかわり
森部綾子

communication "device"
PANAGIOTIDOU Chrysoula

『再会の旅路』

多くの人と出会い、別れ、その積み重ねがあって今のわたしが在ります。 転校や引越しなど、さまざまな理由でつながりが途絶えてしまった人も、 まぎれもなく私の人生を彩ってくれた大切な一人。 今では会わなくなってしまった人、これまでお世話になった人たちに会いに行きたい。 そして、話を聞きたい。そう思ったことが、このプロジェクトの出発点でした。 会いたい人を訪ね、彼らと再会し、紡がれる言葉を聞くことは、 彼らの“過去“や”現在“を知るだけでなく、自分自身を旅することにもつながりました。

このプロジェクトは、わたしと、わたしを縁取る人との「再会」の記録です。 これまで取り組んできたプロジェクトの軌跡をご覧ください。

『アテ・カテゴリー』

「人間」「大学生」「男」など、人は自分や相手をカテゴライズしてコミュニケーションを円滑にしています。 僕はその事象に対して「果たしてカテゴリーに当てはめただけで相手を理解した気になっていいのだろうか」と疑問を持ちました。 そもそも相手をどのカテゴリーに当てはめるかは、見る人の価値観だけでなく、場所や時間など今いる環境によって変わるものです。

     そんな疑問をもとに、社会カテゴリーを見て触れられるキットを作りました。       僕の制作物を通した2、3分の体験が、カテゴリーについて考えるきっかけになることを願っています。

『被災写真とのかかわり』

見ず知らずの人びとの写真を1枚ずつ手作業で洗浄し、 持ち主の元へ返していく。 自然災害によって、雨水や泥水などが浸水し、損傷を受けた写真を「被災写真」と呼びます。 東日本大震災の発生をきっかけに東北から広がっていった「被災写真救済活動」。 写真を救い出していこうとする過程で、 一体何がおこなわれているのかを明らかにすべく、 私は活動現場へのフィールドワークを続けてきました。

よそ者として現場に入り、 作業をつうじてその場に集う人とのコミュニケーションを重ねていくなかで感じ、 見えてきたものは何か。被災写真を1枚でも多く残せるように奮闘してきた人びとの姿、臨場感あふれる現場を表現したいと思います。


『communication "device"』

The fieldwork always promises new encounters. Through repeated interactions we become familiar with and learn to navigate the field in order to discover vital information which will illuminate our research. Often we make use, create or repurpose various objects and technology in order to provoke or accelerate the observation, interaction and communication with the field. These means and media guide not only the research process itself, but also the experience of it and eventual outcomes. Any item carries endless potential of how it can be used in the research process, but some are being seen as more intrusive than others. Recently, smartphones, which have been playing a dominant role in our everyday lives, find many uses during the fieldwork, too, thanks to their many helpful constantly improving features conveniently gathered in such a compact device.

Especially in experiencing fieldwork in intercultural settings, when people of various cultures and languages meet, it may prove as an essential tool in the construction of a common ground between interlocutors. As we increasingly see ourselves in our devices and begin to understand ourselves through them in the everyday, it becomes crucial to examine in what way they actually enlighten our journey of making meaning of the world and the fieldwork.

よ市のビジュアル・フィールドノート
廣瀬花衣

人々が集まる場の要素
大門俊介

恵比寿の余白
2、3年生

加藤研の壁

『よ市のビジュアル・フィールドノート』

岩手県盛岡市「材木町よ市」にあるベアレンビールの店舗の前は少し複雑で、 不思議なコミュニケーションが起こっている場のようです・・ 全天球カメラを使って撮影した調査の記録から作り出された 「ビジュアル・フィールドノート」を見てみてみると、 フィールドには多様な人や物が潜んでいることがわかります。

フィールドの「主人公」は誰なのか、 そもそもフィールドに「主人公」はいるのか、みる人の視点に依存するような、 新しいタイプのフィールド記録としてのメディアをつくってみました。

『人々が集まる場の要素』

コミュニティカフェ、コワーキングスペース、プレイパーク、 子供の居場所、地域スペース…。 立地も名前も目的も様々だけど、何となくいろんな人が集まる「場」。 そのような場を日本全国北から南まで30カ所フィールドワークしながら、 人々が集まる場にはどのような要素があるのかを探っています。 見えてきたことは、一つ一つがユニークな場でありながら、それでも存在する共通要素。 フィールドワークを通して調査者の視点がどのように変化してきたのかも含めながら、 個性的な場の数々を写真と語りでお伝えします。

『恵比寿の余白』

わたしたちの日常生活は、いくつもの出来事の連なりです。 それは、集まりや移動などのために、さまざまな形で分節化されています。 スピードや効率を求めすぎると、「余白」がどんどん少なくなって、時間も空間も、 そして心までもが余裕のない状態になります。わたしたちが大切にしている「気づく力」は、余裕がないと発揮できないものです。だからこそ、今年度は「余白」について 向き合うことにしました。

春学期は、もっぱら「余白」について考え、秋学期は、 恵比寿駅を中心に半径500メートルのエリアを対象地に、「恵比寿の余白」をさがしました。 「余白」は、ふだんは見えていなくても、わたしたちの想像力を駆使すれば、 見えるようになります。「余白」は、他でもない、わたしたちによってつくられるものだからです。

『かとう研の壁』

「かとう研の壁」は、わたしたちの日ごろの活動をふり返るタイムラインです。 学期ごとのグループワーク、全国のまちを巡る「キャンプ」、エクスカーション(遠足)、風俗採集、定期的に刊行してきたウェブマガジンなど、さまざまな活動によって研究室の活動が構成されています。1年に一度、こうやって資料を並べて、たくさんの人びととの出会いがあったこと、数え切れないほどのことばが交わされたことをふり返ります。

フィールドワークの本質が、人とのかかわりであることを忘れないために。さらにもう1年(そしてその先も)、わたしたちが乗り越えてゆく「壁」でもあります。

スケッチブック

OBOG展

『スケッチブック』

加藤研では、日々の記録を残すことをつねに意識しています。 それは、フィールドワーカーの「基本動作」ともいうべきふるまいだからです。 フィールドノート(ジャーナル)は、もっぱら文章で一直線的に残す記録です。

2016年度からは、オリジナルのスケッチブックをこしらえて、 全員がお揃いの「白紙」の状態から使うようにしています。 スケッチブックは、さまざまな思考の流れや変化、つながりを際立たせます。 そして、プロセスの記録は、アイデアの源泉になります。 書くこと、そして描くことを習慣づければ、わたしたちの感性が開拓されるはずです。 フィールドワーク展では、一人ひとりのスケッチブックを並べて展示します。 ページを繰ると、展示がかたどられてゆくプロセスが見えるかもしれません。

『OBOG展』
OBOG展は、加藤研を卒業後、それぞれの道を歩んできた卒業生たちが再び集い、作品を展示する場です。 卒業生たちはそれぞれのタイミングで学生から社会人になり、中には結婚や子育てを経験した人もいます。 卒業後も、それぞれの道を歩みながらむずむずしていたことと思います。

    今回のOBOG展が形作られるまでにも、何をどのように展示するのか、むずむずするポイントがあったはず。それぞれのむずむずに想いを馳せながら、お楽しみください。

メンバー紹介ビデオ

日程


2020年2月7日(金)〜 9日(日)

11:00〜19:00

※9日は 15:00まで


アクセス

フィールドワーク展XVI -むずむず-

HIROSHIGE GALLERY

(〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2丁目10−4)