ちいさなメディア論
GOOD THINGS COME IN SMALL MEDIA

すごしかたを見直すつみき

會田 太一・今村 有里・河井 彩花・芝辻 匠 
[10時から]
 

ちいさなメディアについて考えた

私たちはまず、ちいさなメディアの具体例を思いつく限り挙げるところから始めた。議論を重ねた結果、いかなるメディアでも「ちいさく」デザインできるのではないかと考察した。加えて、メディアの持続可能性についても考えた。その結果、持続のためには自分たちの好きなことを対象にし、続けるモチベーションを保てることが重要だと考えた。そこで、私たちの好きなこと・ものを書き出し、共通点をみつけ、さらに実現可能性を意識し、今何ができるのかについても共有した。これらを踏まえ、初めの指針として、「持続可能なメディアを通して私たちが達成したいこと」を中心に話を進めることにした。
 

行き詰まり

共通点に縛られると、それぞれの個性が薄まるとのフィードバックを受け、それぞれの「苦手なこと」について共有した。「苦手なこと」とは①ただ苦手なこと②理想と比べて劣っていること、の二つに分解できることに気づいた。私たちは後者の「もっとこうなりたい」という願望を表す「苦手」に注目し、「やりたいことをやる」部分にフォーカスした。そこでもう一度、「この半年間何をやりたいか」について考えた。その結果、全員が全く違う方向性を持ち、議論が滞った。そこで、先輩に相談し「とりあえず何かやってみるといいよ」と助言をいただいたことから、実験を行うことにした。
 

初めての実験

最初に、二つの実験を行った。一つ目は、会話にワンクッションを置く実験だ。メンバーがそれぞれの方法で会話の中にワンクッションを置くことを決め実際に生活したが、あまり議論は盛り上がらなかった。二つ目は意味のない行動を探る実験だ。日常生活の意味のない行動に目を向け、それを動画に撮り、観察・分析をした。結果、意味のない行動は①安心感を得る②染み付いた癖③自分だけの遊びの三つに分類できることがわかった。意味のない行動を深掘ることに楽しさを感じ、さらに掘り下げると、意味のない行動は一つの行動から次の行動に移る”あいだ”に介在するメディアだ、と考えるようになった。
 

「意味のない」と「間(ま)」

しかし二回目のプレゼンのフィードバックで「意味のない」行為など存在せず、意味は作り出すものだと伝えられた。そこで、もう一度「意味」について考え直した。そして、意味を見出すとは主観的な行為であり、その人の価値観・感性・経験・状況によって大きく異なることだと結論付けた。中でも、時間の使い方などの自分の本質に関わることについては、よい意味を見出そうとする。時間の使い方に良い意味を持ちたがるとは、何もしなかったという意味づけをすることを恐れ、何らかの行動で「間」を埋めたがるということだ。そこから、今の私たちの生活の中の「間」の大部分を埋めているスマホを禁止する実験を行い、間の埋め方に向き合った。
 

スマホ禁止生活から見えてきたもの

スマホ禁止生活では、いくつかのルールを定めた。一週間、原則電源はオフ、一日に十分のみ使用可能、PCは授業と仕事関連のみ使用可能とした。そして、スマホを使わないことで生まれる「間」に目を向けながら生活する実験を一週間行った。結果、小さな変化は起こったものの、特に次に繋がる気付きはなかった。そこで、もう一度実験について振り返り、私たちが真に求めていることについて考えた。私たちが知りたかったのは、「間」の活用方法ではなく、そもそも「間」をどう作るか、という部分だった。私たちの違和感は、日々の生活において、「バイト」や「ミーティング」といった社会的にもっともらしい言葉で時間が侵食され、ひとりの時間の価値が蔑ろなっていることだった。そして、私たちが目指すべきものは、今までの時間の使い方に波紋を投げかけ、時間の使い方を変化させるようなメディアを作ることだ、と方向性を固めた。
 

ひとりの時間

私たちが求めていることをメディアに落とし込むにあたり、「ひとりの時間」というキーワードに着目した。前提として、人間は社会から切り離されて生活することはできないものの、ひとりでいる時間と誰かと一緒に過ごす時間は明らかに感覚が違う。そこで、メディアについて考える中で、そのようなひとりの時間には名前がないため、それらに名前をつけることで社会的な地位を上げるというアプローチを考えた。そして、実際にその時間に名前をつけ、私たちが求める「間」を作る実験を行った。ひとりの時間をIn My Time の頭文字から「IMT」と名付けた。実験は、「IMT」という時間だけ確保し、その中で何をやるか考える方法と「IMT(読書)」のように、やりたいことを予め決める二つの方法をとった。前者はやりたいことが見つかり、自分の好きな時間を認識できるようになった。一方、後者は他の予定と天秤にかけ、自分の時間を吟味できるようになった。このことから、その人にあった「IMT」の使い方を実践することには意味がある、という結論に至った。
 

 

かたちにする

これまでの実験や議論を踏まえ、メディアとしてカタチにする段階に入った。IMTの実験を通して、私たちは「時間の使い方に対する考え方を変え、より良い時間を過ごしたい」という想いを強く持っているということを再認識した。そこで私たちは「きもちのつみき」を考案した。「きもちのつみき」とは、予定表から時間という概念を排除し、代わりに期待度の軸を中心に予定を可視化するメディアだ。つみきは木材を切り、ヤスリをかけて製作、パッケージに同封する説明書やロゴもこだわりをもって作成した。このつみきは、緊張や楽しみなどの気持ちの総和である期待を表す。また、ヤスリの荒さを変えることで、触り心地を三種類に分け、気持ちの質感によって使い分けられる。私たちは、日々色々な感情とともに限られた時間を生きている。そこで、明日に思いを馳せ、予定というラベルを超えて時間の使い方を想像してみることにより、その使い方にポジティブな意味を見出すことができる。このメディアは、私たちが社会の中で生きていることを強く実感させるとともに、自分と社会との距離や付き合い方についてのヒントをくれる。私たちは、このことが自分の時間の使い方を今よりもさらに良いものへと変化させていくと確信している。「きもちのつみき」は直接的に時間に変化をもたらすことはできないが、私たちの時間の使い方にささやかに波紋を投げかけ、たしかに良い変化をもたらすだろう。