的な桜丘

Tekina Sakuragaoka

語り語られる服

太田 風美・日下 真緒・高島 秀二郎
[ヤバイお土産屋さん]

「お土産デザイナートリオ」
まちを歩くと「身につけたい」という衝動に駆られる。廃墟に描かれるグラフィティ、昭和ロマンなフォント、珍しいマンホール。それらを見て楽しむだけでなく、衣服やグッズとして自分自身の装いに取り入れたくなる。それが私たち三人である。
私たちがお土産Tシャツを作るに至った理由は、お土産とTシャツ、それぞれの性質に惹かれたからだ。
まずTシャツの性質に、着る人自身の性格や外見的特徴が受け手側の解釈を大きく左右するということや、ある事柄を未来に残すという場面において、物理的には弱くとも心理的には記憶や印象を強く残すことができるということがある。お土産の性質には、その時間やその場にいた者にしか語ることができない物語を持つということがある。ただの物質ではなく、それを購入するに至った過程や情緒的状態などの物語が付随するというのはとても尊いことだと感じた。これらの性質を生かし組み合わせ、私たちは「お土産Tシャツ」として変わりゆく桜丘町を残そうと考えた。そこで私たちは「お土産デザイナートリオ」としてまちを歩き、個人の視点を通してある瞬間や風景を勝手に切り取り、Tシャツとして自由に表現し、そしてそれらを身につけるという試みを始めることとなった。
 
「身につける」をつくった初めてのFW
グループ三回目のフィールドワークでJR線路近くにある「The Flying Circus」にてお茶をしていた時に、その店のお土産Tシャツを試しに一度作ってみないか、ということになった。製作にあたって、始めに以下の条件を定めた。⑴15分を制限時間とすること ⑵各々が持っているツール(パソコン、スケッチブック、タブレット、スマホ)なら何を使ってもいいこと の二つだ。その場で感じた感覚を尊重するため、来店して一息ついたらすぐ作業を始めた。そして十五分後に各々のTシャツを発表し合った。各々の視点で切り取られイラストや写真、文字など各々の方法で表現された「The Flying Circus」のTシャツを通して、同じ〝一息つくくらい〟の時間を共有していても全く違う解釈を持ちうるのだと気付いた。三人で何度も会議を重ね作り上げるTシャツより、即興で直感的にデザインするTシャツの方が面白い結果になるのではないかと感じ、私たちはその後も桜丘じゅうのお店を回りながら同じ方法でTシャツのデザインを作り続けた。
 
ブランド作りへの展開
活動の半ば、私たちはとあるレストランの方から店内でTシャツの展示をしてみたらどうかと提案を受け、ありがたくその機会を利用させていただくことにした。ここから私たちは「他人に見せる・開く」ことを意識しながら私たちの活動をパッケージ化することを始めた。まずは三人チームの印が必要だと感じ、ロゴ・ブランドチーム名・ブランドコンセプトを作り上げた。「語り語られる服になるよう」気持ちを込め名前を〔語服〕とし、ロゴもその文字の一部を箪笥やTシャツの形に変形させたものにした。そのお店での展示に向けて準備を始めるまでは、自分が思う通りのデザインを作ることや好き勝手にお店を切り取ることに何の疑問も持っていなかったが、他人に開くことを意識した途端に「これで本当に人々に受け入れられるのだろうか」「お店の中で悪目立ちしないよう工夫しなければ」と悩むようになってしまった。結果、お店での展示は不発。このことから、自己表現の成果を多くの人に受け入れられるように整えることにあまり効果はなく、「私たち的な行動」がのびのびできるよう自由度の高い環境・場を選ぶことが大切なのだと学んだ。また、私たちのTシャツは売り物ではなく学術的な成果物なのだと改めて捉え直すきっかけにもなった。

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「身につける」を初めて実践した日
お店での展示が終わり、私たちは久しぶりにTシャツを「展示のため」ではなく「身につけるため」に手にした。まず、展示が終わったその日の夜に「あおい書店」の前であおい書店Tシャツを着た。次にフィルム写真が得意な研究会の仲間に協力してもらい、Tシャツを作った全てのお店の前でTシャツを着て写真を撮った。街ゆく人はこちらに視線を向けつつも、自分の目的地に向かって歩む足を止める様子はなかった。私たちはというと、そのどちらの場においても自分たちがその場の一員になったような気持ちを感じていた。同時に「もしかしたら誰かに話しかけられるかも」という期待を抱いていたのだが、実際に話しかけられることはなかった。最初は少し落ち込んだが、あることを思い出した。それは活動初期にそもそも「お土産」とはなんだろうかと調べていた時、過去の研究会の先輩方の文章から〔リマインダー:その場の記憶を呼び起こす〕、〔トークン:その場に溶け込み、一部になった気持ちにさせる〕という二つの効果について知り、そこから「現在はトークンの色を強く持つが、対象の町が閉じた後には町を思い出すリマインダーになる」のが私たちのTシャツになると良いのではないかと考えていたということだ。つまり最初に考えていた私たちのTシャツの役割には合う結果が出ていたのだ。今まで即時に描いて即時に作って、というスピード感を持って動いてきた私たちにとって、即時に効果や効果が無いことは慣れないことだった。だが、私たちの作品の中で唯一「ゆっくり時間をかける」プロセスである『Tシャツのリマインダー化』が 購入者の方々にいつ起こるだろうかと思いを馳せながら渋谷のまちが生まれ変わっていくのを眺めることができるのは、作り手側の最大の特権だと言えるだろう。
 
「私たち的な」とは
お土産Tシャツはその地域の象徴を「再現」「描写」することで成り立ち、デザインTシャツはアーティストがTシャツというメディア上で「自己表現」することで成り立つ。〔語服〕はその二つを併せ持つTシャツであるため「万人ウケするデザイン」であったり「尖って理解され難いデザイン」であったりという「ムラ」ができた。また、ブランドの運営という面には購入者にTシャツの価格を決めてもらったり、ルックブックやウェブサイトの中に自分たちの好きな要素を詰め込んだりというような、私たちの「挑戦的な売り方」「遊び心」が自然と加わっていった。そして、三人それぞれに元々あった趣味や考えも、半年間ひたすらに進めた中でだんだんとプロジェクト上に滲み出た。これらのことを完成間近の今になって振り返ってみると、この〔語服〕ブランドには「私たちが本当にしたかったこと」が詰まっていて、それによって成り立つ「私たちにしか作り得ない世界観」があった。
この〔語服〕プロジェクトは、桜丘に留まらない。アメリカでもインドでも火星でも、私たちは十五分でデザインを描き、Tシャツを刷って着ることができる。それは私たち三人が表現者として独立し、三人的な表現スタイルを確立した証拠だろう。できることならこれからも様々な場所で、語服Tシャツの表現を続けていきたい。

語服 オフィシャルサイト https://gofuku.style/
 
『的な桜丘』は、2019年2月8日(金)〜10日(日)にかけて開催した「フィールドワーク展XV:ドリップ」(https://vanotica.net/fw1015/)で展示しました。