この研究会では、コミュニケーション論・メディア論の観点から「場」というコンセプトについて考えます。

地域コミュニティのなかで、創造性に富み、活気のある「場」はどのように生まれ、育まれてゆくのか…。まずは、じぶんの足で歩くことからはじめます。五感を駆使してまちをじっくりと眺め、気になった〈モノ・コト〉をていねいに「採集」することを大切にします。それは、つまるところ、ひととの関係性を理解することであり、じぶん自身について向き合うことです。

2003年春から、「場のチカラ」というテーマで研究会を開講してきました。「場」は、たんなる物理的な環境ではなく、ひととひととの相互作用が前提となって生まれます。その意味で、「場」はコミュニケーションの問題としてアプローチする必要があります。さらに、ひとびとが「状況(situation)」をどう理解するかは、個人的な問題であると同時に、社会的な関係の理解、環境との相互作用の所産として理解されるべきものです。関わるひとびとの人数規模によって、「場」の性質は変わるはずです。単発的に生まれ、一度限りで消失する「場」もあれば、定期的・継続的に構成され維持されていく「場」もあります。

こうした「場」の特質を理解するための方法(調査・学習・表現に関わるさまざまな「しかた」)を考え、実際にフィールドに出かけて、その有用性を試すこと、意味づけをおこなうことが中心的な活動になります。過去3年は、柴又(東京都葛飾区, 2004)、金沢(石川県, 2005)、坂出(香川, 2006)等でフィールド調査をおこない、地域資源の評価・再評価を試みてきました。

2007年度春学期の“タイトル”は、「まち{で,を,が}{あそ,まな}ぶ」です。
具体的に対象となる地域を決めて、学期をつうじて継続的にフィールドワークをすすめながら、以下のように発想してみます。

(1) まちで遊ぶ・まちで学ぶ
まずは、まちに出かけます。「鬼ごっこ」「かくれんぼ」「宝探し」のように、かつて無心にまちを走り回っていた頃を思い出しながら、「遊び場」「学園」「教室」としてのまちを再考します。具体的には、カメラ付きケータイをはじめとするさまざまなモバイル機器(GPS、デジタル歩数計、ボイスレコーダーなど)を活用した「まち遊び/学び」のデザインと実践をおこないます。たとえば、近年注目されている「ジオキャッシング(Geocaching)」「グリーンマップ(Green Map)」「ハッシュハウスハリアーズ(Hash House Harriers)」のような既存の活動を、「まち遊び/学び」のコンテンツとして位置づけ、目的や対象に応じてバリエーションを考案し、具体的なワークショップの企画・運営を念頭に実験をすすめます。

(2) まちを遊ぶ・まちを学ぶ
まちに出かけることが日常的なふるまいになってきたら、まちに偏在するさまざまな資源の評価・再評価をすすめます。身体的な感覚をともなうかたちで遊び、そして学ぶことによって、これまで慣れ親しんでいたのとはちがった感覚で、まちを理解できるようになるはずです。当然のことながら、このプロセスにおいては、あたらしい人間関係をつくり、育んでゆくことが必要になります。結局のところ、まちを遊び、(それをつうじて)まちを学ぶ試みをつうじて、ぼくたちのコミュニケーションのあり方を再考することが求められるのです。

(3) まちが遊ぶ・まちが学ぶ
最終的に目指すべきは、ぼくたちの調査・研究の成果を、何らかのかたちで地域コミュニティに還すことです。まちが遊び心に満ち(つまり、コミュニティそのものがある種の寛容さやゆとりを持つこと)、まちが自律的に学ぶ(つまり、みずからが暮らす生活環境を恒常的に評価し、必要に応じてアクションを起こすこと)という状況が、どのように実現されうるのかを考えます。これについては、少しばかりのんびりと見守る必要がありますが、つねに調査者の位置を確認しながら、あたらしい地域メディアのデザインやワークショップの企画などをおこないます。

研究会への取り組みについては、以下の点を重視しています。

(1) フィールドで発想する
この研究会では、現場(フィールド)での直接的な体験から、〈モノ・コト〉を考えるスタイルを大切にします。もちろん、本・論文を読むこと、理論的な枠組みをしっかりとつくることも重要ですが、まずはじぶんの目で見ること・じぶんの身体で感じることを重視します。近年、「フィールドワーク」ということばが一般的に使われるようになりましたが、「フィールドワーク」には、地道に観察・記録をおこなうこと、時間をかけてデータの整理や解釈を試みることなど、知識を生成するための“技法”としてのトレーニングには(それなりの)時間とエネルギーが要求されます。まち歩きを愉しむことは重要ですが、一人前のフィールドワーカーとして、足を動かすことが求められます。

(2) カレンダーを意識する
忙しいことは悪いことではないと思いますが、じぶんの〈やりたいこと〉と〈やること〉とのバランスを上手く取らないと、すべてが中途半端になります。他の授業やサークル、アルバイトなど、さまざまな活動とともに研究会を“中心”に位置づけることを強く望みます。言いかえるならば、〈望ましさ〉と〈実現可能性〉をつねに意識するということです。これはやる気、能力、チャンスなどと関連していますが、スケジュールや時間のマネジメントが重要である場合が少なくありません。中途半端にならないように、研究活動のカレンダーをきちんとデザインすることが重要です。

(3) じぶんを記録する
フィールドワークを基本的なアプローチにする際、調査の対象となる〈モノ・コト〉への感受性ばかりでなく、テーマに取り組んでいるじぶん自身への感受性も重要です。つまり、じぶんが、いったいどのような〈立場〉で〈モノ・コト〉を見ているのか…をどれだけ意識できるかということです。また、その〈立場〉をどのように明示的に表現(=つまりは調査結果の報告)できるか、が大切です。フィールドワークをおこなう際には、現場で見たこと・発見したことを書き留めるためにフィールドノートを書くのが一般的ですが、研究会の時間をふくめ、日々のじぶんをハガキやモブログに記録します。


すすめかた/スケジュール

詳細は、具体的に調整がすすんだ段階で載せますが、6月中旬〜7月はじめに坂出市(香川県)でのフィールドワーク(1泊もしくは2泊)を予定しています。2007年度秋学期も、「まち{で,を,が}{あそ,まな}ぶ」をテーマにすすめます。学期末(2008年2月)には、フィールド調査等の成果を発表する「フィールドワーク展IV」を開く予定です。

  • 週2回の研究会のうち、1回は、フィールドワークに出かけます。詳細については調整しますが、原則として木曜日の午後は空けておくように履修計画を立ててください。
  • 木曜日はフィールドに出かけ、月曜日の研究会の時間は、おもに調査経過/成果の発表や文献解題、お互いの活動についての情報の共有のために使います。
  • 課題・演習によっては、少人数のグループワークをおこないます。
  • できるかぎり、“インフォーマルな学び”の時間をつくります。
  • 学期中の活動は、きちんとカタチにします(学会等での発表・展示を目指して成果をまとめます)。

参考文献

上記のテーマで活動するにあたって、まずは、まずは以下の本を読んでください。いわゆる「輪読」はしませんが、本の内容と直結させるかたちでフィールドワークをおこなうようにしたいと考えています。必要に応じて、資料等を配布・紹介します。

  • 阿部謹也(1988)『自分のなかに歴史をよむ』(ちくまプリマーブックス)
  • アンダーヒル, P.(2004)『なぜ人はショッピングモールが大好きなのか』鈴木主税(訳)早川書房
  • 梅田卓夫(2001)『文章表現 400字からのレッスン』(ちくま学芸文庫)
  • 海野弘(2004)『足が未来をつくる:〈視覚の帝国〉から〈足の文化〉へ』(洋泉社)
  • 今和次郎(1987)『考現学入門』藤森照信(編)(ちくま文庫)
  • ハイデン, D.(2002)『場所の力:パブリックヒストリーとしての都市景観』後藤春彦・篠田裕見・佐藤俊郎(訳)(学芸出版社)
  • ホワイト, W.(2000)『ストリート・コーナーソサエティ』奥田道大・有里典三(訳)(有斐閣)
  • 好井裕明(2006)『「あたりまえ」を疑う社会学:質的調査のセンス』(光文社新書)

このほかにも、テーマおよび調査方法についての書籍や文献を読むことになります。たとえば、これまでに、以下のような文献を紹介してきました。

  • インフォプラント(監修・編集協力)/宣伝会議(編集)(2005)『実践!! モバイルリサーチ:携帯電話がリサーチを変える』(宣伝会議)
  • ギアーツ, C. (1996)『文化の読み方/書き方』(岩波書店)
  • ゴフマン, E.(1980)『集まりの構造:新しい日常行動論を求めて』丸木恵祐・本名信行(訳)(誠信書房)
  • コポマー, T.(2004)『ケータイは世の中を変える』川浦康至・溝渕佐知・山田隆・森祐治(訳)(北大路書房)
  • 今和次郎(編)(2001)『新版大東京案内(上・下)』(ちくま学芸文庫)
  • 桜井厚(2002)『インタビューの社会学:ライフストーリーの聞き方』(せりか書房)
  • 佐藤郁哉(2002)『フィールドワークの技法:問いを育てる、仮説をきたえる』(新曜社)
  • 佐藤郁哉(1992)『フィールドワーク』(新曜社)
  • 佐藤健二(1994)『風景の生産・風景の解放』(講談社選書メチエ)
  • 谷岡一郎(2000)『「社会調査」のウソ:リサーチ・リテラシーのすすめ』(文春新書)
  • 鳥越けい子(1997)『サウンドスケープ:その思想と実践』(鹿島出版会/SD選書)
  • ヴァン=マーネン, J.(1988)森川渉(訳)『フィールドワークの物語:エスノグラフィーの文章作法』(現代書館)
  • 箕浦康子(編著)(1999)『フィールドワークの技法と実際:マイクロ・エスノグラフィー入門』(ミネルヴァ書房)
  • 宮部修(1997)『インタビュー取材の実践』(晩聲社)
  • 山岸美穂・山岸健(1999)『音の風景とは何か:サウンドスケープの社会誌』(NHKブックス)
  • 好井裕明・三浦耕吉郎(編)(2004)『社会学的フィールドワーク』(世界思想社)

募集人数

 25名程度

履修希望者が多数いる場合は選考します。
※4年生で、2007年度春学期が最終学期となるひとは、「卒業制作」をおこなうことが履修条件です。
※原則として、4年生最終学期からの新規履修(07春学期卒業予定のひと)はできません。

2007年度春学期からの履修について

テーマに関心があることはもちろんですが、原則として、履修するための条件は以下のとおりです。

  • 研究会を中心にじぶんの学修プランを考えているひと
  • 週に1回、フィールドワークに出かけることのできる(つもりがある)ひと
  • 本気でやるひと
  • こだわりのあるひと

※2006年度秋学期履修者の継続を優先させます。履修希望者が多数いる場合は選考します。
※加藤が担当する「行動と社会関係」「ネットワークコミュニケーション」「フィールドワーク法」(旧「社会調査法B」)「情報環境論」「モバイルリサーチ」のいずれか(いくつか/すべて)を履修したことがあるひとが望ましいでしょう。

新規履修希望者は、下記の (1) (2) のいずれか(その気があれば両方)をまとめてください。

(1) 以下のキーワードのいずれかをテーマに、エッセイ(600字)を書く。

  • アップロード
  • 閉店セール
  • 交換日記
  • 圏外
  • タクシー乗り場

(2) なぜ、このプロジェクトに興味をもったのか。じぶんはどのように関わるつもりか。その他、自己アピールもふくめて志望理由・活動計画(案)をまとめる(1000〜1200字程度)。

提出期限:2007年2月1日(木)23:59 時間厳守

提出方法:メールで07s [at] fklab.net宛てに送ってください。他のアドレスに送られらたものは、読まない(というより、見落とす)場合があるので注意。かならず、学部、学年、名前、メールアドレスを明記してください。質問・その他についても、同様に07s [at] fklab.net宛てにメールを送ってください。 [at] のところに@を入れてください。

可能なかぎり、会って話をする機会をつくりたいと思います。研究室の展示(フィールドワーク展III)会期中に、簡単な「面接」(それほど堅苦しいものではありません)をおこないますので、予定を空けておいてください。メールはマメにチェックしてください。

面接

日時:2007年2月3日(土)〜5日(月)時間は調整します。
場所:gallery size(東京都目黒区自由が丘2-15-10 A&Dハウス401号室)

履修希望者の人数によって変わりますが、例年、ひとり10分以上は話をするように予定を調整しています。
・フィールドワーク展III http://vanotica.net/fw103/

注意:これは2006年12月26日現在のページです。プロジェクトの具体的な活動・最新情報については、下記を参照してください。随時更新するので、マメにチェックしてください。
・2007年度春学期シラバス http://vanotica.net/07S/
・参考:2006年度秋学期シラバス http://vanotica.net/06F/


注意:これは2006年12月26日現在のページです。プロジェクトの具体的な活動・最新情報については、下記を参照してください。随時更新するので、マメにチェックしてください。→ 場のチカラ プロジェクト