中華王

中島彩也香・堀越千晴・山崎雄大

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洋光台駅の改札を出てロータリーを右伝いに進み、横断歩道を渡った先の建物の二階に中華王という店がある。店主の王さんは快活で人あたりが良く、いつも笑顔を絶やさない。彼は二年前に妻子とともに中央団地に暮らし始め、昨年度に店をオープンしたという。私たちは、中華料理の味もさることながら、彼の明るい人柄に惹かれてここを調査することに決めた。

ある人の暮らしを知るためには、その人と深い関係を築かなければならない。暮らしは個人的な領域であり、他人が無神経に立ち入れるところではないからだ。普段、私たちは見知らぬ他人と出会い、ことばを交わし、ときには友人となる。しかし、調査者という立場になり、年齢や出生の異なる人物と向き合ったとき、それは難しいことのように思えた。私たちは、常連になることを目標にして店に通い始めた。

ある日、彼は閉店後に中央団地の静かな公園に連れて行ってくれた。
「ずっと笑っていると疲れるから、いつもここに来るんです。」
彼はそう言うと、ベンチに腰掛けて煙草に火をつけた。ここでしばらく過ごしていると、心配した奥さんが姿を見せるという。終電が近づき、私たちがその公園をあとにしてからも、彼は薄暗い街灯の下でひっそりと過ごしていた。
そこにはたしかに、家庭と仕事の狭間で力強く生きるひとりの人間がいた。


「中華王」を聴く

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慶應義塾大学 加藤文俊研究室(2014年度秋学期)