常連になる ::: 樹林

樹林

廣野吉隆・竹下絢・龍山千里

はじめてのとき

01.gif樹林の店内:神奈川県横浜市南区白妙町1-3 * クリックすると拡大表示されます。私たちは阪東橋という駅に降りた。薄暗い地下鉄の改札、初めて降り立った駅に小さな探究心を抱いて、商店街へ続く階段を探す。地上へ出ると雨が降っていた。少し道なりに歩いていくと、人通りの多い商店街が見えた。

私たちは商店街を端から端まで歩いてみることにした。ここでの「まち・ひと」に注目して感じてはみる。その中で、お店を決めていこうとした。しかし、「ここにしたい」というお店がなかなか決まらない。たくさんのお店を見ては見るものの、私たちは立ち止まってしまった。

「常連になるお店」とはどういうことなのだろう。気軽にコミュニケーションを取ることができるお店ということ、雰囲気に慣れ親しめるお店ということなのだろうか。あれやこれやと考えていくうちに私たちはある考えに行きついた。「自分の場所」、つまりは自分の机と椅子が存在する場所なのではないだろうか。そんなこと考えながら、諦めかけて帰ろうとしたとき、たまたま通った商店街の脇に、『樹林』というお店を見つけた。お店の前に植物が生い茂っている小さなお店だった。

マスターと呼ばれているご主人がひとりでキッチンに立っている。「いらっしゃい。」と優しい声で挨拶をしてくれる。とても笑顔が素敵だった。ぼけーっと、そのお店やマスターの様子を眺めていたら、傷だらけの窓ガラス越しも、じっとりと湿った重いソファーも、味気ない内装も、全てがいとおしく思えてきた。ここには人の持つ愛すべき曖昧さがあふれている。壁にかかっているメニューから、カフェオレを頼んだ。注文が入るとすぐに、マスターはコーヒーサイフォンに水を入れて沸かす。ぶくぶくと沸騰した湯が上昇し、コーヒーの香ばしい薫りが漂い始める。カフェオレを淹れてくれている間に、話し声が飛び交った。そのとき、このお店にいたお客さんのほとんどがこのお店の常連らしく、メニューにもないメニューを頼んでいた。そして、私たちは自然とこのお店の雰囲気に惹かれ、「常連になりたい」と思っていた。

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