チャラ

Go Well Together

報いのチャラ

安藤 あかね・喜安 千香・牧野 渚

[合計5メートル]

 

ステージ人間

メンバーはそれぞれ、ピアノ、合唱、ストリートダンスのパフォーマーとして舞台上で演じた経験を持っているという共通点がある。演者としての自分たちを「ステージ人間」と称し、その観点から「チャラ」について考えた。すると、ジャンルは違えど、練習を重ねて本番で観客から評価を受けるという過程がどのようなステージにも存在していることに気がついた。たった数分の本番のために膨大な練習時間を費やすことの裏では、何かしらの「チャラ」が発生しているだろうと想像した。そしてその「チャラ」とは、練習過程の中で苦労が報われたと感じることなのではないかという仮説を立てた。
 

評価者ランキング

「ステージ人間」としての「チャラ」へのアプローチとして、各々が初めて立ったステージ(ピアノの発表会、合唱コンクール、チアリーディングのショー)を振り返った。パフォーマンスを見てくれる観客がいることで、普段より姿勢が整ったり、力強い発声ができる、満面の笑顔でダンスができるなどの経験があり、ステージ上では評価者の目を意識して振る舞うことが「演じる」ということであると発見した。
本番を経て「チャラ」を感じる過程の中では、評価者からのフィードバックをもらうことが練習に費やした努力と時間の対価になるという点において、自分自身だけでなく評価者も何かしらの役割を担っているのではと考えた。そこで「チャラ」と評価者の関係性、そしてどのような評価を重要視しているのかを探るため、これまでの評価を受けた経験を振り返り、報われたと感じた度合いにしたがって評価者を順位付けた。
すると、その順位付けの仕方にはメンバーそれぞれの傾向が現れた。千香は、自分が努力している姿を側で見てきた人からの評価を重視しているため、練習過程を褒めてくれた評価者が上位に集中した。アンディー(あかね)はステージを共有し観客と一体となって楽しむことを重視しているため、本番のパフォーマンスを褒めてくれた評価者が上位に集中した。渚は練習期間と本番での出来事が共存していて、状況により評価者の背景や性格に応じて評価者を順位付けていた。このように、報われたと感じる時は全員が共通した基準に従って感じているのではなく、個人によって「チャラ」を感じる理由やタイミングが異なることがわかった。
 

脳内図

さらに具体的にどのようなタイミングで「チャラ」を感じるのかを掘り下げるため、脳内図を制作した。自分の思考をたどり、マインドマップに表すことで可視化した。マップの中心を「報われる」とし、外側にいくにつれて具体的な心情や思考の変化を書き出した。特に「報われる」ことに強く影響した要素を、その上から線を引いて強調した。本番での要素と練習での要素を色分けをして区別し、線の濃淡と太さで「チャラ」を感じた強さを表してさらに図に強弱を付けた。
この過程を通して、三人の思考の違いが浮き彫りになった。アンディーはそもそも、マップを構成する要素が本番に関係するもののみだった。観客を楽しませたい、披露している作品の良さを伝えたいという気持ちが強かった。千香は本番・練習に関する要素のどちらもあったが、要素の数と「チャラ」を感じた強さは練習に関するものの方が圧倒的に大きかった。練習中の成長に気づいてもらえたり、自分の成長を実感できることに報いを感じやすいからだ。渚は本番・練習に関する要素が、数も「チャラ」を感じた強さもちょうど同じくらいだった。練習の段階でソロを任せられることと、本番を観客に楽しんでもらうことが最も重要視されていた要素だった。このようにメンバーそれぞれの個性が顕になり、一人ひとりの「チャラ」に関連性が高い要素が見えるようになった。
 

ステージ人間診断タイプ

千香・アンディー・渚の三つのタイプをただ提示するだけでは伝わりにくいため、インタラクティブなアウトプットを心がけた。個人差をうまく活かせるアウトプットとして、心理テストや性格診断などをモデルに「ステージ人間タイプ診断テスト」を制作した。診断を受けてもらうことを通してメンバーの特性を紹介するとともに、自身がどのように「チャラ」を感じるかを知ってもらうことができる。一人10問で自らのタイプを言い表した質問を作成し、計30問の質問を作った。なるべく具体的な質問内容にすることで、診断の忠実性を上げた。質問の数が少なすぎると診断の精度が落ちるが、反対に多すぎても診断の回答者を手間取らせてしまう。回答者からのフィードバックも踏まえ、30問は、診断を受ける人にとっておおよそ丁度良い質問数だろうと考えた。全ての設問に答え終わると、三人の中で最も近い「ステージ人間タイプ」が算出される仕組みになっている。
 
◎あなたのステージ人間タイプは? 
http://web.sfc.keio.ac.jp/~t18028aa/shindan.html
 

「チャラ」を迎える

一学期間を通じて「チャラ」についてグループワークをしていく中で、最後は「チャラ」にして終わりたいという感情がグループの中で生まれた。そこで三人でひとつのパフォーマンスをすることで「ステージ人間」ならではの「チャラ」を迎えることにした。情勢を踏まえてオンラインでの実現となったが、千香が演奏したピアノに合わせてアンディーが歌い、渚が踊る動画を制作した。個別に撮影し、それらをひとつの動画に編集して公開した。研究室での公開を前提にしていたため、観客を選ばず、どのような人にでも楽しんでもらえるOfficial髭男dismの『Pretender』という楽曲でパフォーマンスをすることに決め、一ヶ月以上かけて練習を重ねた。最初は想定していなかったことだが、選んだ楽曲は程よく難易度が高く、練習にやりがいを感じられた。撮影・編集・公開の中でタイミングは様々であっても、必ず全員が「チャラ」だと思えるような過程にすることを心がけた。
動画を公開するまでの一連の過程を経たことで、努力が報われたことを実感して長かった練習期間を「チャラ」にすることに成功した。今回の体験はあくまでもオンラインでのステージとしての理解であり、オフラインで同じ取り組みをしても同じ「チャラ」の感じ方をするとは限らない。しかし、どちらの場合であっても、嬉しい評価をされたら報いを感じるのは同じだろう。
また、オンラインでのパフォーマンスは観客とパフォーマーが同じ空間を共有しないという状況が発生する。そのため、メンバー内で本番だと認識するタイミングに差が生じた。千香は評価者が同じ空間にいることで生まれる緊張感ありきで本番を認識していたため、オンラインステージでは本番だと感じる場面がなかった。これに対し、アンディーは撮影中と公開時、渚は人目に初めて触れる公開時が本番だと認識していた。私たちの場合、本番だと認識する範囲の広さ(広い順にアンディー、渚、千香)は、本番に「チャラ」を感じる強さと比例していたのだ。