チャラ

Go Well Together

見え隠れするチャラ

入江 桜子・中田 早紀・藤田 明優菜

[三色すみれ]

 

不釣り合いな交換

私たちははじめに、各々が考えるチャラの具体例をあげた。そして、物やお金のやりとりにとどまらず、応援やツケ払い、ボランティアなど、様々な場面でチャラに関わる交換が行われていることに気づいた。すると、それらには不釣り合いにもかかわらずなぜか成立しているという共通点があった。そこから、私たちは不釣り合いな交換だからこそチャラという言葉が生まれるのではないかと考えた。その中でも、その場で交換が完結するのではない、時間や空間を超える交換に注目した。
 

関係性とチャラ

そもそも私たちは、生活の中で釣り合いを求め、行動している。私たちがチャラにしようとする理由には、相手との関係性が深く関連していると考えた。まずその一つとして考えられるのは〈関係に区切りをつける〉ためだ。知り合ったばかりなど今後も付き合いが続いていくか分からない関係であると、例えば奢られた時にいつお返しをできるか分からない。そのため、近い将来のうちにお返しをし、関係性に区切りをつけようとするのだと考えた。もう一つは〈関係を続ける〉ためである。前者のように奢られた場合でも、「次は自分が奢る」とお返しを未来に預けることでチャラになる瞬間も先延ばしされる。そこには、一度きりではなく、今後も関係を続けていきたいという気持ちが込められている。さらに例外として、関係性が変化せずに続いていくと既に分かっている場合があると考えた。つまり、〈関係に区切りをつける〉ことや意図的に〈関係を続ける〉ことを考える必要のない、親友や恋人のような関係だ。その場合、長い付き合いの中でチャラが連鎖していくうちに、チャラという言葉では語りきれない関係性が誕生する。
では、チャラはいつ達成されるのだろうか。それは、当事者の目的や意思が達成された瞬間であると考えた。そのため、人によって達成される瞬間は異なる。例えば、「プレゼントをあげたい」という目的であればあげた瞬間で達成されるのに対し、「プレゼントを喜んでもらいたい」という目的であれば喜んでいる姿を見た瞬間に達成される。もし喜んでもらえなかったら達成されず、チャラにならないのだ。
 

見え隠れするチャラ感覚

私たちは日常の中でチャラを繰り返しているが、不釣り合いを認識する感覚(これを「チャラ感覚」と名付ける)は、関係性の中で見え隠れするものではないかと考えた。何かをきっかけに今まで意識されていなかったチャラ感覚が芽生える。このきっかけには二種類あり、一つは進学や引っ越しなど〈関係に期限や区切りが見えた時〉、そしてもう一つは〈ハプニングが起きた時〉だ。前者の場合、区切りを認識すると貸していた物を返してもらうよう急いだり、それ以上物の貸し借りをしないようにしたりすることが考えられる。私たちは後者に注目し、三人それぞれが今まで経験したハプニングについて共有し合った。その上で、チャラ感覚の見え隠れする仕組みを整理した。まず、良好な関係が続いている中で、ある時、遅刻やドタキャンなどのハプニングが生じる。すると、「私はいつも遅刻しないのに」といったように、今まで自分がしてきた行動を振り返り、相手と比較し、チャラ感覚が意識される。その後、不釣り合いをなくすために私たちはバランスをとりはじめる。そして、バランスがとれた時には二人の間で共通認識が生まれ、チャラ感覚が再び意識されない状態になる。このように私たちは、関係が続いていく中で、相手とバランスをとりながらチャラ感覚の見え隠れを繰り返しているのだ。
これを踏まえて私たちはより具体化をはかるために、メンバーそれぞれが長い関係を築いている親友に「これまで乗り越えてきたハプニング」をテーマにインタビューを行った。それぞれ出会った環境や性格が異なるため、三者三様で様々な話が出てきたのが印象的だったが、一つだけ共通していることは相手と〈バランスをとり続けている〉ということだった。これは意識的にとる場合もあれば、無意識的にバランスをとっている場合もある。
もちろんハプニングが起きない関係性も時にはあるだろう。しかし、例えば喧嘩をしないような仲でもチャラが言動にあらわれていないだけで、バランスをとろうとしていることに変わりはない。つまり、あらゆる人間関係はチャラで語ることができるのだ。
 

関係性のスパイス

これまで述べてきたように、チャラ感覚は相手とのかかわりの中でハプニングが起き、相手とのバランスをとろうとする時にあらわれる。普段は意識されないが、誰しもが心に持っているものである。相手とのバランスをとろうとするとき、相手への思いやりや配慮以外に、損得感情やプラスマイナスで数値化したものさしで考えてしまうこともあるかもしれない。しかしその行動には、相手との関係性を続けていきたいというメッセージが含まれている。そのため、チャラはすべてにおいて否定されるものではなく、チャラこそが人間関係を順調に築いていくためのスパイスとなるのだ。

 

8コマのエピソード集

私たちが考えたチャラをより多くの人に知ってもらうため、8コマ漫画のエピソード集を制作した。その中には50個の待ち合わせに関するエピソードが収録されている。例えば、「寝坊して待ち合わせ時間に遅れてしまったため、謝罪の気持ちを込めてプリンを贈る」や「前回遅刻してしまったから、早めに待ち合わせ場所に着くようにする」など、待ち合わせを巡ってチャラ感覚があらわれたり、相手とのバランスをとろうとしたりする様子が描かれている。
作中では、混乱を避けるためにチャラという言葉は用いていない。8コマ漫画にした理由は幅広い世代が気軽に読むことができ、絵が中心のため読者に想像を促すことができるからだ。また、これは世界中の人に読んでもらうことを想定しており、言葉を一切使用せず、登場人物をキャラクター化した。加えて、約束の時間に遅れることを悪いと思わない人や十分前行動を基本とする人を登場させるなど、待ち合わせや時間に関する多様な価値観を取り入れるようにした。
当初、エピソード集では待ち合わせに限らず物の貸し借りや頼みごとのやりとりなど、日常の様々な場面であらわれるチャラ感覚を描く予定であった。しかし、グループで話し合い、エピソード集を通して読者にあらゆる関係性の中に潜むチャラを知り、周囲との関係性について振り返る機会となってほしいと考えた。そのため、より多くの人に経験があり、共感しやすい待ち合わせに限定し、様々なバランスのとりかたを見比べられるようにした。このエピソード集はインターネット上に公開されており、世界中で閲覧できるようになっている。