工夫と修繕 ::: はじめに

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はじめに

加藤文俊

じろじろ・あれこれ・いろいろ

フィールドワークの方法と態度を身につけるためには、毎日の暮らしのなかで〈①じろじろ見る → ②あれこれ想像する → ③いろいろ集める〉をくり返す練習をすればいい。教科書を読んで学ぶだけではなく、じぶんの日常生活に、このサイクルを組み込むことが大切なのだ。

言うまでもなく、ぼくたちの暮らしはハプニングに満ちている。だからこそ、面白い。目の前にあるちいさな問題は、じぶんたちで何とか解決しようとする。緊急を要するなら、その場で知恵を絞り、何かを調達して対処する。とりあえず、その場をしのぐこともある。このように、ぼくたちは、向き合うべき問題に応じて、しなやかに、臨機応変に、その場にふさわしいと思われる解決方法を模索し、やりくりしながら暮らしている。

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こうしたやりくりの成果は、まちのさまざまな場面に表れているはずだ。だから、まずは、まちを歩きながら「じろじろ見る」ことからはじめよう。スマホの画面を操作するのは後にして、きょろきょろしながら、人びとの活動の余韻や予兆を探すのだ。ちょっとでも気になるモノがあったら、じろじろと観察する。細かいところ、裏側、上から下から斜めから。道ゆく人に怪しまれることを恐れずに、じろじろ見るのだ。

そのあとは「あれこれ想像する」態度が求められる。これはなんだろう。なぜここにあるのだろう。誰がこんなふうに置いたのだろう。五感を開放して、あれこれ想像してみる。妄想でも、邪推でもかまわない。観察されたモノの背後には、おそらく、それに関わりをもった人の姿が映るはずだ。ぼくたちをとりまくさまざまなモノを、人の〈しわざ〉の表れとして考えてみよう。もちろん、誰かと話をしたり、資料を探したりするのもいい。じぶんの想像力だけに頼らず、いろいろな知識を動員すれば、あたらしいアイデアも浮かんでくるだろう。

そして、さらに「じろじろ」をくり返し、ひとつではなく、いくつものモノを採集する。「いろいろ集める」のである。たくさん集まったら、それらを並べて(あるいは地図上に位置を示して)、見比べたり、分類を試みたりする。そのなかで、なんらかの傾向性が見えてくるかもしれない。

工夫と修繕

2012年度秋学期は、「工夫と修繕」というテーマで、銀座界隈のフィールドワークをおこなうことにした。3〜4名のグループに分かれて、じろじろ、あれこれ、いろいろ、というプロセスを体験しながら、銀座1丁目から8丁目までのエリア内の踏査(悉皆的フィールドワーク)をすすめた。

「工夫と修繕」のフィールドワークは、まちに遍在する人びとの〈しわざ〉を探すことが課題だ。たとえば、路地裏のモノの収納方法を見れば、段取りの善し悪しを読み解くことができるかもしれない。モノはじっと動かないが、あれこれ想像していると、はたらく人びとの姿が、頭のなかで動きはじめる。あるいは、モノの修復の跡や代用品に目を向ければ、モノに対する価値観を知るきっかけになるだろう。ガムテープの重なりから、モノを少しでも長く使おうと、幾度も手が加えられてきた様子をうかがい知ることもできる。「工夫と修繕」の現場には、暮らしのなかの知恵、モノへの想い、そして、モノをつうじて道ゆく人に伝えたいメッセージがある。

調査エリア内で「工夫と修繕」だと思うモノは、屋内もふくめてすべて対象とし、いずれも観察可能であること(写真に収める・スケッチすることが可能)を条件に採集をすすめた。そして、モノやそれをつつみ込む現場には、名前をつけた。名前があれば、いくつもの「工夫」や「修繕」は、建物の名称や屋号とおなじように、銀座のまちのなかに、きちんと居場所を獲得することになる。また、今回のフィールドワークで採集された「工夫と修繕」を一覧できるような地図もつくった。この地図を片手に、銀座を歩いてみるのも楽しいはずだ。

なお、この「工夫と修繕」のフィールドワークは、早稲田大学・佐藤洋一研究室との共同プロジェクトとして実施した。おなじテーマで、それぞれの研究室が一定期間フィールドワークをおこない、成果を公開・講評し合うというやり方を試してみることにした。

隠れたおしゃべり
階段裏のしつらえ
よろずばん
イケイケ☆ランプ

PDF版で読む [工夫と修繕PDF.png](1.9MB)
フィールドワーク展Ⅸ:おでん

さらにくわしい調査結果や写真などは、2013年2月8日(金)〜10日(日)に開催される「フィールドワーク展IX:おでん」でご覧ください。