ぱっちえんどうルートマップ

ぱっちえんどう

會田 太一・山中 萌美・山本 凜
[ゲンシカイキ]

地に足をつける

4月、「まずはとにかく歩いてみると良い」という先生の言葉に従って、私たちは歩きやストリートビューで遠藤を訪ねた。それと同時に、事前に提示されていた参考資料や「となりのエンドーくん」というタイトルから、遠藤の「なに」を見るべきなのか、という問いの答えを探そうとしていた。
グループで何度か歩く中で、「エンドーくん」から、中学や高校時代の、隣の席のクラスメイトを連想するという話になった。席替えしてすぐの、物理的には近いが親しくはない隣の席のエンドーくんとは、どこかぎこちなさもありながら、近いからこそ起こる反復的なコミュニケーションによって、少しずつ他人から隣人くらいの距離感に変化していく。近くにあるけれどまだまだ知らないことの多い遠藤という地域は、私たちにとってそんな存在なのではないかと考えた。
その後散策を続け、ストリートビューで通れない道やそこにある生活の痕跡を「エンドーくんの素顔」と仮定した。さらに、普段の私たち3人が誰かと仲良くなりたい時にどうするかを考えた時、SNSからその人を知ろうとする、という共通点があった。そこから、インスタグラム上にエンドーくんの素顔が切り取られた裏垢(結果的にはサブアカウント的なものになった)を作ることにした。
裏垢の投稿を作成しながら遠藤の人々の生活に近づけた感覚はあったものの、コンセプトありきのフィールドワークになっている、という指摘を受けた。「裏垢」というコンセプトから一度離れて、私たちが現場から何を感じるのかを知るために、とにかく惹かれたものを写真に収める、ということだけ決めて何度か歩いた。すると、地面の模様の写真が多いことに気がついた。
 

地面の模様から考える

まず、なぜ私たちが地面の模様に惹かれるのかについて話し合った。そして、コンクリートで舗装された秩序のある場所に、混沌として無秩序な模様があるからこそ、そのチグハグさや違和感が私たちの遊び心をくすぐるのではないかと結論づけた。そこから、地面の模様がどうして生まれたのか?という疑問と、何かに見立てたり、遊んだりといったように、地面の模様を介したコミュニケーションの可能性について模索していくことにした。
地面の模様ができる理由を分析すると、大きく3つに分けて整理できた。1つめは、電柱や標識を立てるために部分的に舗装を剥がし、上から舗装を重ねた場所。2つめは事故や劣化によって生まれたもので、そこに補修が加えられている場合もある。3つめは水道管や暗渠などの、水の通り道になっている場所。これは、表に出ている水路の近くに多いことも分かった。地面の模様ができた背景には、人々の活動や元々の遠藤の地形が関わっている。つまり、地面の模様は、エンドーくんや地面の模様を作った人とそこを歩く私たちを結びつけるメディアとなり得ると言える。そして、この結びつきをより面白くするための方法やツールを探す方向で議論を進めた。
地面の模様がパッチワークのようだという発想から、地面の模様を「えんどうぱっち」と名付け、そこから「パッチ」の意味を調べた。すると、①継ぎ当て用の小さい布、(パッチワークの)布片。②オペレーティングシステムやアプリケーションソフトの不具合などを修正するためのファイル。修正する必要がある部分のプログラムのみを更新する。修正プログラム。修正パッチ。という2つの意味があることがわかった。遠藤の地面に介入することは、エンドーくんとの関係性を更新する行為(=遠藤をpatchすること)である。そう捉えると、①と②の両方の意味が名前に込められるのではないかと考えた。
 

Patch Endo

実際に遠藤に出向き、どのように「ぱっちえんどう」が行えるかを試した。最初に、クリアファイルとホワイトボード用のペンを持ち、ファイル越しに線をなぞり、家に帰ってなぞった線で塗り絵をする、という実験を行った。振り返りをして、模様に近づけば近づくほど、何かに見立て易くなることがわかった。1人あたり10個の模様をスケッチしたが、塗り絵のパートで使われたのは、いずれも模様に近いところで描かれたものだった。この結果を踏まえ、よりえんどうぱっちに近づくために、チョークを購入し再度歩くことにした。えんどうぱっちから見立てたものをその場で描いてみると、ただ線をなぞるよりも、エンドーくんと深く関わっている感覚があった。チョークのみを介して身体的に地面と近づくことで、関係性をより深く更新している感覚が得られた。
 

 

エンドーくんと遊ぶ

私たちは、ぱっちえんどうの方法としてチョークを用いるのが最適だと考え、他の人にも試してもらうために、いくつかのコースを提案することにした。車通りが比較的少なく安全にお絵描きができること、お絵描きしやすい模様が密集しているという2点を意識して、3つのコースを考えた。コース①は、キャンパスからほど近い市道辻堂駅遠藤線から宝泉寺に向かうルート。コース②は、藤沢ジャンボゴルフから湘南コミュニティチャーチに向かうルート。コース③は、肉のさくらいから秋葉台公園の方をぐるりと回って、高倉遠藤線に再び合流するルートだ。
また、お絵描きする際に持ち歩くためのキットとしてチョークケースとサコッシュを作った。チョークケースは、メディアセンターの3Dプリンターを使用して出力し、サコッシュは、メンバーのいらない洋服を再利用したパッチワークで作ることにした。パッチワークのデザインは、地面の模様に着目するきっかけとなった、新設される学生寮の近くにあるえんどうぱっちをモチーフにした。
遠藤地域は道路拡張などが既に予定されており、今あるえんどうぱっちは消えてしまう可能性が大きい。そのため、ぱっちえんどうという行為によってえんどうぱっちを記録し残しておくことに意味がある。そういった背景を知り、ただ楽しむだけでなく、ぱっちえんどうを通して地面の模様が持つ歴史や関連する知識に触れる機会になって欲しいと考えた。具体的には、遠藤地域に住む方々の思い出や記憶を喚起したり、子ども達が遠藤に親しみ、遠藤の持つ時層的な面白さに触れたりするきっかけとなったら嬉しい。今後は、キットを用いて私たち以外の人にもぱっちえんどうを試してもらい、フィードバックを元に、より良い形に更新していきたい。