ちがう着方で歩いてみる

まとって、あう

松井 七海・篠原 彩乃・池本 次朗
[ちがうきかたで]

エンドーくんはどんな人?

私たちはまず「となりのエンドーくん」のねらいを探ろうと、資料を手がかりに話し合い、「エンドー」を地名としての遠藤と捉えて、キャンパス付近を3人で歩いた。言葉を交わす中で、キャンパスへの行き帰りに使う交通手段が、ななみは徒歩、じろうは自転車、あやのはバスと、それぞれ異なっていることに気づき、グループ名を「ちがうきかたで。」とした。何回かやりとりを重ねた後、実際に3人で遠藤地域を歩くことにした。歩いてみると、エンドーくんは竹林や住宅街、工場、畑などのいろいろな顔を持っていることに気づいた。また、歩いている人の少なさや道の歩きやすさに違いがあることも感じた。とりわけわたしたちが関心を持ったのは、わたしたち3人の遠藤との関わり方が大きく違うことによる、エンドーくんとの距離感やスピード感の違いだった。そこで、わたしたちはより深くエンドーくんを知るために、遠藤地域を何度も歩いてみることにした。
 

いろいろな方法でエンドーくんを見る

エンドーくんを深く知るために、ルートや記録の方法、歩き方などを変化させて遠藤地域を歩いてみた。例えば、2回目に歩く際、途中の気になったところをインスタントカメラで撮影し、スマホの録音機能を使って録音した。記録の方法をさまざまな形に変化させることは、わたしたちがエンドーくんを見る視点にフィルターをかけているように感じた。同時に、そのフィルターは、記録方法だけではなく、他の方法でかけることもできるのではないかと考えた。また、今まで歩いたことのない場所を歩いてみると、場所によって歩きやすさや人通りの多さ、店舗の分布の仕方などに大きなばらつきがあることや、天気によって歩いているときの景色の見え方や歩くことのできる範囲が大きく変わってしまうこともわかった。これらのことから、エンドーくんは一言で表現できるようなものではないこと、またエンドーくんの見え方は、「エンドーくんを誰が見つめるか」によって大きく変わるのだとわかった。
 

いままでとはちがう視点でエンドーくんを見つめる

エンドーくんの見方を変えるために、わたしたちは自身を「キャラ化」して遠藤を歩いてみることにした。これまでは、普段キャンパスで着るようなラフな格好で遠藤を歩いていたが、この時はそれぞれが自分に設定したキャラクターで歩いた。ななみはハイヒールを履きこなすお洒落な女子大生に、じろうは農作業をする高校生に、あやのは買い物帰りで重い荷物を持った娘に自身のキャラクターを設定した。また、歩くルートや時間帯は揃えず、その時の自分が歩きたいと思った方向に進むことにした。自らのキャラを設定して歩いてみると、自分の視線や意識を向ける対象、持ち物や歩こうとするルートの選び方に私服で歩いた時と比べてわずかな違いが生まれた。例えばななみは、ハイヒールによって生じた足の疲労感を回復するために座れる場所を探したり、綺麗な靴やワンピースを汚さないために、きちんと整備されている道を無意識のうちに歩いたりしていた。じろうは、農作業用の服と雰囲気が合う畑のエリアを歩き、いつもは買わない麦茶(普段はジャスミンティーを買う)を手にしていた。あやのは、重い荷物を持っていたために、少しでも坂の少ないルートを選んだり、少し休憩できる場所を探したりしていた。
しかし、この違いは、服装や持ち物を変えたことによる「身体への物理的な影響」と、見た目を変えたことによる「自身への心理的な影響」がごちゃ混ぜになってしまっているのではないかと考えた。自分たちの体験を例にとると、ハイヒールや重い荷物の影響で休み場所を探すのは身体への物理的な影響であり、買ったお茶の種類が変わったことは自身への心理的な影響であるといえる。その中でも、一見すると非常に些細ともいえる心理的な影響に興味が湧き、深く考えることにした。
 

自意識の変化について考える

わたしたちはこの心理的な影響を「自意識の変化」と名づけ、自意識の変化がどのような状況のもとで生まれるかを調べるために以下のルールを設けて遠藤を歩くことにした。

  • 3人が共通したルートを歩く。
  • 歩く際には事前に決めていた箇所で時間を記録する。
  • 普段着ではない服装で歩く。
  • ルート上のどの場所でどのように思ったのかを記録する。

歩き終わった後にそれぞれの撮った写真や状況などを共有した。ななみは浴衣で、あやのはスーツで、じろうは作業着で歩いた結果、総じて、それぞれが歩く中で居心地の良い・悪い場所を感じていたことがわかった。また、服装や靴の変化によって生まれた「音や視界」の変化に戸惑いつつ、面白さを感じていた点が共通していたことがわかった。このことから、これらの心境の変化が、各エリアを歩くスピードや視線の動かし方、背筋の伸び方などの行動に影響しているのではないかと考えた。しかし、行動の変化はとても小さく些細なものであるため、行動の変化が「自意識の変化」によって生じたものである、という確証を完全に持つことはできなかった。「自意識の変化」を明確に捉えることは厳しいと感じた。
 

多くの人の体験をもとに

そこで、わたしたちはより多くの人の「自意識の変化による小さな行動の変化」の体験を集めることにした。私たち3人以外の「行動の変化」を収集することで、わずかな変化の中に共通する何かを見つけたり、遠藤との心理的な距離が縮まったりするかもしれない。その結果として、自意識の変化についてより深く理解することができるのではないか、と考えたためである。行動の変化を集めるツールとして、遠藤を歩くためのポストカードを作成した。多くの人の「自意識の変化」は繊細な情報であり、持ち運びができる気軽さと集まった内容がオープンにならないという2つの特徴を持つポストカードは、変化を集めるのに適していると考えた。このポストカードを使いながら、みなさんにも私たちが歩いた約一時間のルートを、いつもとはちがう服装で歩いてもらい、普段とのちがいをとらえてもらいたいと考えている。そして起こった変化を私たちまで届けてもらうことで、「自意識の変化」をより深く捉え、エンドーくんと接点を持ったそれぞれの体験を可視化し、まちへの解像度をさらに上げていきたいと私たちは考えている。