手紙を書いた場所

Dear Endo

西谷 唯香・木根 景人・大西 美月
[歩み]

テーマ考察

私たちはまず最初に今回のテーマについて考えるところからスタートした。テーマを聞いてそれぞれ何を思い浮かべたかを話したところ、私たちが立場や異なる視点を持つからなのか、全員が違うものを思い浮かべていた。そのため、「視点や立場が違うからこそ発見できること」に焦点を当てることにした。そこで、春学期の活動を通じて、グループメンバーのもつ視点の違いを知りながら、自分のまちや人に対する感性を見つめ直したいと思った。そして、テーマ「となりのエンドーくん」を、自分の「となり」にいるエンドーくんを考える活動だと考え、自分がエンドーくんに対してもつ考えを通じて、自分自身について見つめ直したいと思った。
 

ラブレター?ファンレター?

実際に3人で歩いてみると、注目してみたいものはバラバラだった。3人で歩く時と1人で歩く時では注目したいポイントが変わって来るのではないかと考え、次からは各々好きな場所を歩くことにした。その際の気づきをグループで話し合ったところ、相違点だけではなく、共通点もあることがわかった。全員が、エンドーに対して「〇〇と思っていたけど意外と〇〇」と感じていたのだ。これは、「他者のギャップを知って好きになる感覚」と類似していると思った。私たちはこの「好き」という気持ちをエンドーくんに伝えるために、ラブレターを書くことにした。ラブレターを通して、エンドーくんのどこが気になっているのか、そしてどういう人として自分の目に映っているかを表現してみたいと思ったのだ。実際に書いたラブレターはその都度グループ内で共有し、エンドーくんを表現するためにどのような語句を用いているかに注目しながら、エンドーくんの人物像について考えた。
しかし、研究会での進捗発表の際に、「私たちが書いているものは本当にラブレターなのか」「ラブレターではなくファンレターなのではないか」というフィードバックをもらった。その後グループで話し合いを重ね、手紙のあり方を再考する中で、遠藤を定期的に歩く一エンドーくんファンとして書く手紙の方が、よりやりたいことに近いのではないかと思った。ここから私たちはラブレターではなくファンレターとして手紙を認識するようになった。
 

制限を設けてみた

これまでは3人一緒に同じところを歩くことと3人異なる場所を歩くことをしてきたが、次のステップとしてそれぞれが同じ場所を違うタイミングで歩くことにした。また、今回は場所という制限だけではなく、手紙を300mojiで書くという文字数制限も設けることにした*1。制限を設けた方が自分たちが本当に知りたいことを表現できると思ったからだ。私たちは、3人で決めた場所を別々に歩き、一旦自宅に帰ってから300mojiを書いた。発見は後からやってくるというように、少し時間をおくことで頭が整理されることを狙いとしていた。歩いて300mojiを書くことで最終的に私たちの感性を元にエンドーくんを知っていきたいと思った。歩きのゴールは、始めは大学の近くに設定し、徐々に遠い場所を目標とした。そうすることで、エンドーくんを段階的に知っていくことができるのではないかと考えた。
 

やっぱりファンレター

文字数を制限した手紙を書いていたが、活動をする中でやはり私たちの想いをエンドーくんに伝えるには文字数を制限しないファンレターの方が適しているのではないかと感じるようになった。そこで300mojiから離れ、再び字数制限のないファンレターを書くことにした。私たちはエンドーくんを知ることを目的にしていることを再確認し、歩いてファンレターを書くことを繰り返すことにした。私たちはファンレターを5枚書くことに決定し、その中でエンドーくんと私の関係性の変化をみていった。論理的思考を用いてメンバーの書いた手紙を分析することを期待して、LTDを議論の方法として採用した*2。
実際にLTDを行ってみると、それぞれに文章の特徴や変化があった。例えば、あきとのファンレターでは、毎回文頭が形式的な文章になっている特徴があり、変化としては、最初の4枚は「公園の様子」「目の前に広がる植物」などの視覚的情報が多く書かれていたが、5枚目のみ「雨の落ちる音」「木がなびく音」などの聴覚的情報になっていた。ゆいかのファンレターでは、“!”が多く使われている特徴があり、内容によってその使用量も変化していた。みづきは全体を通して「いろいろな顔を見せてくれるエンドーくん」「おだやかで、あたたかく、平和なエンドーくん」という表現で自分の中の理想のエンドーくんを綴っていたが、その理想像は回を追うごとに変化していた。
 

 

Dear Endo

以上を踏まえて、私たちが成果物として作ったのは、”Dear Endo”という名のレターセットである。私たちが遠藤を歩き、手紙を書くことを繰り返す中で、さまざまな発見があったように、手紙を書く前提があることで、細かいところを意識して歩くようになり、自分が感じた正直な気持ちを綴って遠藤を振り返ることを他の人にも経験してもらいたいと思った。特にファンレターは、相手からの返事を期待するものでもなく、一方的なコミュニケーションである。自ら終わらせようとしない限りは終わらないため、自分が好きなように文章を書くことができ、自分の素直な気持ちが書きやすい環境なのだ。レターセットの手紙部分には、私たち3人が歩いた場所をプロットした地図を載せる。1つの地図で表してみると、みづきは遠藤地域に対して横に分布していて、あきととゆいかは縦に分布しているという傾向が見られた。レターセットの利用者には、地図上にプロットされた中から気になる場所を選んでもらい、同じ場所を歩いてもらう。私たちが歩いた道を歩いてもらうことで、私たちとの共通点や相違点がわかるだろう。レターセットを用いて手紙を書き、遠藤のことを知る中で自分自身を見つめ直し、エンドーくんとの距離も縮めてもらいたいと思う。
 

*1 300文字原稿用紙に自由に文章を書くことで、ことばを研ぐ練習として行なっている研究会での取り組みの1つである。
*2 LTD(Learning Through Discussion)とは、日本語で「話し合い学習法」と呼ばれる1つの共同学習方法で、学習課題の理解を深めることやディスカッションスキルの向上、論理的思考の発達など多くのことを期待される方法である。
・安永悟(2006)「実践・LTD話し合い学習法」ナカニシヤ出版