渋谷のプリズム
Shibuya Prisms

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#シブヤインピクチャ

木根 景人・坂根 瑛梨子・山中 萌美
 

「すれちがい」と「心のつながり」

渋谷では「すれちがい」がよく起きているのではないか。実際に渋谷を歩いてみて、私たちはそう感じた。まずは、すれちがいの種類を考え、1.場所と時間を共有して、お互いに認識するすれちがい2.時間は同じだが、位置がずれて会えないすれちがい3.位置は同じだが、時間がずれて会えないすれちがい の3種類に分類した。1はその場で気づくが、2、3はあとからすれちがいに気づく。次に、この3種類のすれちがいをより具体的に見ていくため、すれちがいの度合いを定量化しようと試みた。しかし、そこに関係してくる変数は、距離、時間、相手との関係性、場所の性質、と無数にあり、答えは見出せなかった。そのため、すれちがいという関心は持ちながらも、ふたたび渋谷のフィールドに出ることにした。
そこで、すれちがい発見実験を行った。開始から1時間半は自由行動。その後はお互いを探しながら見つかるまで歩いた。その際に、サイレントログを用いることで、事後的にすれちがいを確認できるようにした。そして、その結果を時間地理学に置き換えた。1.同じ停留点にいて、事実上ではバンドルが生じていても、人が多すぎて認識できないすれちがい 2.同じ時間に同じ位置を通る、つまりパスが交差していて、バンドルができないすれちがい 3.違う時間帯に同じ位置を通る、つまりパスが平行していてバンドルができていないすれちがい これらはどれも、最初に挙げていた3種類のすれちがいに分類されない。しかし、ここまでの活動を通して、すれちがいを分類することに興味がある訳では無いと感じていた。
そこで、再び何も考えを持たずに渋谷を歩いてみたところ、「心のつながり」への関心に気づいた。私たちは、すれちがい自体よりも、偶然すれちがった時や、すれちがいを事後的に発見した時の心がつながる瞬間に興味があることがわかった。つまり、パスが交わる瞬間やバンドルが生じる瞬間、さらにはパスが交わらずとも、すれちがいは起きていて、これを発見することで心のつながりを感じられる。この心のつながりに私たちは興味があった。そのため、私たちはこの「すれちがい」とそれを結ぶ「心のつながり」に注目して活動を進めた。
 

「ちいさなメディア」と「場所がもつメディア性」

すれちがいに気づいたときの心のつながりへの興味を踏まえて、私たちがすれちがいに関連して行ってきた活動を、2つの観点に分けて記述することができる。まず1つは、渋谷における「ちいさなメディア」への興味だ。渋谷は多くの人が行き交い、「自分の居場所がない」「情報が氾濫していて、匿名性が高い」と感じがちだ。だからこそ、自分と限られたひとだけがつながれるものがあれば、安心や嬉しさを感じるのではないかと考えた。そこに着目して私たちは、3人が違う日時にそれぞれ渋谷を歩いて、すれちがいをつなぎそうなメディアを探してみた。写真を撮りたくなるような広告やアイドルがパフォーマンスをしながら走るバス、また路上に停まっている珍しい車などを見つけた。もう1つ、渋谷におけるメディアをめぐって偶然体験したことがある。ある日、渋谷でのグループワークを終えて解散したあと、えりこは友人と東急プラザを訪れた。そこで綺麗なオブジェを見つけ、写真を撮った。そのオブジェはじつはもえみの叔母が手がけたもので、その上同じ日の1時間後にもえみもそこで写真を撮っていた。オブジェがなければ、グループワーク後に2人がすれちがっていたことには気づけなかっただろう。オブジェがすれちがいをつなぐメディアになった。
もう1つの観点は、「場所がもつメディア性」だ。ジャスティン・ビーバーが渋谷にいたという情報を見て、数日後にその場所を訪れ、同じ画角で写真を撮ってみた。また、長期的なすれちがい、自分とのすれちがいについても試そうと考え、過去の自分とすれちがいを起こしてみた。例えばあきとが高校生のときにヒカリエの屋上から撮影した景色と同じ場所から同じ画角で撮影してみたり、えりこが部活の全国大会で訪れたNHKホールで、当時と同じ画角で写真を撮ったりした。その他にも、Instagramのストーリーを使って、あきとがもえみを追いかける、という活動を試してみた。ある場所に「さっきまであの人がいた」という意味が見出され、場所そのものがメディアになりうることを確認した。これらの活動や体験から、渋谷でのすれちがいをつなぐちいさなメディアを、私たち自身で作ってみようと考えた。
 

#シブヤインピクチャ

そこで私たちはシブヤインピクチャという活動を始めた。シブヤインピクチャは、私たちが撮った渋谷の写真に、誰かが同じ場所で写真を重ねて撮影し、その写真をまた別の人が繰り返し撮影していくという活動である。この活動の狙いは、1.時間差のすれちがいを起こして、心のつながりを感じること、2.直前までそこにいた、その人の温もりを感じること、3.シブヤインピクチャをする人だけをつなぐ、ちいさなメディアを作ることである。最初の2つはこの活動を通して、渋谷という人に溢れた街で心のつながりを生むことが目的であり、最後の1つは私たちのお気に入りである渋谷の複数の場所をこの活動をしている人にとってのメディアにしたいという思いがある。
シブヤインピクチャはInstagramを通して行っている。また、時間という鮮度を保つため、ファミリーマートのネットワークプリント機能を用いて使用する写真をシェアすることにした。ファミリーマートのネットワークプリントに写真を登録すると、プリンターで印刷できる期限が1週間しかない。この活動を続けるためには、前の人があげた1週間以内に次の人が写真をファミリーマートで印刷しなければならない。まずは研究会に所属している人に協力してもらい、この活動を進めている。そして、フィールドワーク展では、展示を見にきてくれた人にも協力してもらう予定である。この活動を進めていき、Instagramの#シブヤインピクチャに写真がたくさん並んであるようにしたい。渋谷は人の流れが激しく、日々たくさんのすれちがいが起きている。この活動を通して、渋谷の街で心のつながりを感じることで、渋谷に人がいることに意識的になるだろう。ただ目的があって人が集まる場所という渋谷から、自分と限られた人だけがつながり、安心や嬉しさを得られるような、新しい渋谷が見えてくることを期待している。