ぎこちない距離

 Awkward Distance 

ちぐはぐなSNS

 

飯盛 いずみ・藤田 明優菜
[バランス食堂]

 

オンライン化の影響

まずは、ぎこちない距離という切り口から、多くのことがオンラインで済まされるようになったことについて、それぞれが感じていることを話した。特に、大学の授業や友人たちとのやりとりのほとんどがオンライン化されたことによる影響は思いの外大きい。例として二つ紹介する。一つ目は、あいまいだった関係性が明確になり、より近くなった人と疎遠になった人で二分化されたことだ。以前は、大学に行けば会える、つまり「会おうとしなくても会える」というあいまいな関係性が存在していた。しかしオンライン化により大学に行かなくなったことで、「会おうとしないと会えない」状況となり、関係性がより近くなるか、疎遠になるかの二つに明確になったのだ。二つ目は、オンラインとオフラインでふるまいが変わるということだ。オンラインでしか顔を合わせていなかった人といざ対面で会ったときに、抱いていた印象と違ったという経験から、オンラインとオフラインではふるまいや与える印象が違うのではないかと考えた。コミュニケーションの多くがオンライン化されたことによって、人と人との間の距離の見え方に変化が生じている。
 

関係性に応じた繋がり方

ここからさらに、オンラインでのコミュニケーションに焦点を当てて考えることにした。現在LINEやTwitter、Instagramをはじめとするオンラインでのコミュニケーションツールは数多く存在しているなかで、各種ツールによって自分のモードが変化していることに気がついた。このことから、私たちは相手との関係性に応じたツールで繋がっているのではないかと考えた。例えば、大学の先生に用件を伝えるときはメールを使用するが、友人に連絡をするときはLINEを使用して少しくだけた文体で送る。一方で、LINEで長文の内容が送られてきたり、堅い文体の文章が送られてきたりしたときに、私たちはどこか違和感を覚えてしまう。つまり、関係性に合わないツールで繋がったときに、私たちはぎこちなさを感じるのだ。
 

SNS分析

私たちは本当に関係性に応じてツールを使い分けているのかを調査するために、日常的に使用しているSNSでの繋がりを分析することにした。手法としては、LINE・Twitter・Instagram・Snapchatで繋がっている人を表にまとめ、それぞれの呼び名・関係性・どのツールで繋がっているかを全て書き出した。すると、どこでどのように知り合ったのかがわからない「不明な人」が思いの外多く存在していることがわかった。私たちはツールの使い分け以前に、誰と繋がっているのかを全て把握しきれていなかったのだ。また、一人あたり複数のツールで繋がっていることも多く、関係性やメッセージの内容によってどのツールを選ぶのかが変わることに気がついた。そこで、どのようなときにどのSNSを選ぶのかをさらに分析してみると、メッセージの内容によって使い分けていることがわかった。例えば、Instagramのストーリーズに反応するのはたまたま会って立ち話をするような感覚で、LINEへの個人チャットはあらかじめ約束をして話すような感覚と似ている。これらのSNS分析を通して、私たちはSNSでもオフラインでも、場面に対してふさわしいメッセージのやりとりを求めていることがわかった。
 

SNSにおける違和感

これまでの経験をもとに、SNSを利用しているなかで抱く違和感についても話し合った。ここでは、二つ紹介する。一つ目は、フォローしているのに、ミュートしてしまう違和感だ。TwitterやInstagramには、ミュートという自分のタイムライン上で特定のアカウントの投稿を非表示にする機能がある。投稿を見たいわけではないが、フォローを返さなかったりアンフォローしたりすると関係が悪化しそうだという懸念から、ミュートを選ぶのだと考えた。二つ目は、再現しきれない「間」への違和感だ。InstagramやSnapchatなどで会話をするとき、「入力中」やそれを表すイラストが表示される。この表示は、対面で話しているときに空気を読んだり「間」を大切にしたりするのを再現しているのだと考えられる。しかし、この表示があっても実際に相手の具体的な状況がわかるわけではない。対面における「間」を無理やりSNSでも再現しようとしたために、ぎこちなさの要因となってしまう。
また、「私たちは繋がることばかり考えて、繋がりを断つことについてはあまり議論していないのではないか」という意見を聞き、私たちの身の回りに起きている「繋がりを断つこと」について話し合った。そのなかで最も興味深かったのは、バランス食堂のメンバーの一人が定期的にSNSのアカウントを作り直しているという話だ。アカウントを作ってから数年経つとフォローとフォロワーが増え、なかには、今は全く関わりのない人も多くなってしまう。そのため、アカウントを新たに作って一度繋がりを断つことで、SNSでの交友関係とリアルの交友関係を近づけるのだ。
 

ぎこちなさの要素

話し合いを続けるなかで、私たちには常に「ぎこちなさのないSNSは楽しいのだろうか」という疑問を抱いていた。SNSにせよリアルにせよ、ぎこちなさはコミュニケーションの醍醐味と言えるのではないだろうか。ぎこちなさは必ずしも悪いわけではないということをふまえ、SNSにおけるぎこちなさの要素を三つに分類した。一つ目は、SNSにもリアルにもある要素だ。ここには、一対一のやりとり、メッセージによる場面の使い分け、再現しきれていないにせよ、コミュニケーションの「間」が挙げられる。二つ目は、SNSにだけある要素だ。ここには、一対大衆のやりとり、発言(投稿)の削除、フォローとフォロワー、完全なミュートとアンフォローが挙げられる。三つ目は、リアルにだけある要素だ。ここには、空気を読むこと、場や空間、雰囲気の共有、触れること、嗅ぐことが挙げられる。特に、三つ目の要素は、現状のSNSでは体験できないことである。ここにSNS、あるいはオンラインではすべての物事を代替できない理由があると考えられる。
 

 

SNS年表とお悩み相談室

SNSに対して違和感を抱いたり悩んだりしながらも、なぜ私たちはSNSを使い続けているのだろうか。答えが出ないようなこの疑問について考えるために、「SNS年表」を作成し、SNSのお悩み相談室を開くことに決めた。「SNS年表」では、LINE・Twitter・Instagramのサービス開始から現在に至るまでの機能の変化を時系列にまとめた。加えて、機能の変化にともなう私たち自身の利用状況やふるまいの変化も入れることで、私たちがSNSに求めているものやコミュニケーション観を知る糸口にした。SNSのお悩み相談室は、作成したHP上でSNSに関する悩みを公に募集し、私たちが答えるという内容になっている。また、私たち自身の悩みも公開し、その回答も募集している。多くの人の悩みや違和感、その対処法を知ることで、先述した疑問への答えを考え続けたい。

 
 
 
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