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岩﨑 日向子・門澤 菫・野上 桃子・山本 凜

 

おにぎりという食べもの

春学期を通じて私たちは、おにぎりをきっかけにたくさんの共食の時間を過ごした。その中で感じたのは、日本人ならば誰もが知っていて、簡単に作ることのできるおにぎりという食べ物には、人と人とをぐっと近付ける力がある、ということだ。もちろん、共に食べるという営み自体が人々を近付けるものであるが、手で握って形を作り、手で持って食べるおにぎりはどこか特別な親密性を感じさせる食べものである。
おにぎりのもうひとつの特徴として、持ち運びやすさが挙げられるだろう。お弁当の定番でもあるおにぎりは、ラップやアルミホイルに包んで、どこへでも持っていくことができる。カトラリーを使う必要がなく、冷めても美味しく食べられるところも持ち運び向きだ。共食の場を作るには、食べ物を用意するための水道、電気、ガス、調理器具や、食べるための場所といった様々な社会的インフラが必要である。しかし、モビリティに優れたおにぎりであれば、そのようなハードルを比較的容易に乗り越えることができる。

にぎりばを開く

おにぎりが持つ親密性とモビリティを活かした共食の場を作ることができないだろうか?というところからスタートした私たちの活動は、「にぎりば」と名付けた、作り手と食べ手が共におにぎりを食べながら時間を共有する場をどのように作ることができるのか、どのように意味付けられるのかについて考えていくものとなった。
特に印象残っている「にぎりば」は、キャンパス内の研究棟周辺にベンチテーブルを置いて、4種類のおにぎりをふるまった回である。21時頃の開催だったが、近くで作業をしていた多くの学生が訪れてくれた。ベンチテーブルの周りに集まった人々は、おにぎりを自分のスペースに持ち帰るわけでも極端に長居をするわけでもなく、私たちや周りの学生と話しながらおにぎりをひとつふたつ食べて自分の研究棟に戻った後、他の学生に声をかけてくれたようだった。そのため、話を聞いてきた学生も集まり、常にテーブルの周りに人がいるような盛況となった。たくさんの人が美味しそうにおにぎりを食べて、楽しそうに過ごしているのを見て、共食の場を作ることの魅力を感じることができた。また、キッチンでおにぎりを準備していたところに、「何を作ってるんですか?」と声を掛けてくれた学生もいた。中国出身だという彼女からは、中国では冷たいご飯を食べる文化がないためおにぎりのような食べ物もない、という話を教えてもらい、少し打ち解けた雰囲気でおにぎりの味見もしてもらった。準備を含め、「にぎりば」で出会った学生たちとの会話は、レシピや握り方などのおにぎりに関するものだけではなく、お互いの研究会での活動についてへと広がり、これまではすれ違っても話すことのなかった相手と、共に食べることを通じて親しくなれたことを実感した。
一方で、活動報告を行った際に、金銭等の対価を貰わずに食べものを渡すことは、コミュニケーションの場をセッティングしているというよりも、ただの配給(お腹がすいた時に現れる便利屋さん)になってしまう可能性があるのではないか、という指摘も受けた。指摘を受け話し合う中で、そもそもこのプロジェクトは「話してみたい人と話すきっかけを作る」ための場づくりであったことを改めて確認した。そして、そのためには自分たちのコミュニティから離れた場所へ出向く必要があると考え、それぞれが話してみたい相手におにぎりを持っていくことにした。
 
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